
※2026年1月8日更新
「キス・オア・キル」
原題:Kiss or Kill
(オーストラリア1997年、日本1999年公開/1時間36分/MA15+/クライム・ロード・ムーヴィー/DVDで観賞可能)
監督:ビル・ベネット
出演:マット・デイ/フランセス・オコナー
(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)
国営テレビ局ABCのリポーターとして10年活躍し、全豪テレビ界で栄えあるロギー賞のリポーター・オブ・ザ・イヤー賞を受賞したこともあり、1983年に映画監督に転身するやこちらも監督デビューと同時に非常に高い評価を得るに至ったというユニークな経歴を持つビル・ベネットが監督だけでなく製作・脚本も手がけ全編アデレードが州都である南オーストラリア州各地で撮影、1997年全豪公開、日本でも2年後の1999年に劇場公開された、オーストラリア映画では珍しいフィルム・ノワール作品(※後述)。ベネット監督は本作の前年、「サンドラ・ブロックの恋する泥棒(Two If by Sea)」(1996)でハリウッド進出も果たしている。
主人公の窃盗犯カップル、アルとニッキー役を演じたマット・デイとフランセス・オコナーはそろってAFI賞主演男女優賞候補に


主人公の窃盗犯カップル、アルとニッキー役にマット・デイ(「月に願いを」「ミュリエルの結婚」)とフランセス・オコナー(「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」)が扮し、全豪映画界で最も権威ある第39回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)では主要10部門11候補となり(2人組の刑事を演じたクリス・ヘイウッドとアンドリュー・S・ギルバートがどちらも助演男優賞候補に)、ともにノミネイトされていたデイとオコナーの主演男女優賞は逸したものの作品、監督、助演男優(2人組の刑事の若手役のS・ギルバート)、編集、音響賞の5部門受賞に輝いた(主演男女優賞のほか受賞を逸したのは脚本、撮影、衣装デザイン賞)。また、海外でもモントリオール世界映画祭に出品され、そちらではオコナーが最優秀女優賞を受賞し、シカゴ国際映画祭でも受賞には至らなかったが作品賞にノミネイトされた。なお、オコナーは同年度AFI賞においてケイト・ブランシェットとリチャード・ロクスバラと共演した「サンク・ゴッド・ヒー・メット・リズィー」でも主演女優賞に、つまり同年度に2作品でダブル・ノミネイションを受けていたから、本作公開の1997年はオコナーがノリにノッていた時期でもある。
アルとニッキーの後方に立つのは本作でAFI賞助演男優賞を受賞した若手刑事役のアンドリュー・S・ギルバート


主演の2人以外の出演者陣では、まず逃亡するアルとニッキーを追う2人組の刑事の年長者をクリス・ヘイウッド(「ミュリエルの結婚」「最も危険な悪女<おんな>」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)が、若手をアンドリュー・S・ギルバートが演じ前述の通り2人同時にAFI賞助演男優賞候補となりS・ギルバートが受賞した。S・ギルバートは本作の2年後、ヒュー・ジャックマンとクローディア・カーヴァンと共演した「ペイパーバック・ヒーロー」(1999)でもAFI賞助演男優賞候補に。ほかにも、自分が性犯罪者だという証拠となるヴィデオ・テイプをアルとニッキーに握られこちらも刑事たちとは別に2人を追うフットボール界の元スター選手ジッパー・ドイル役にバリー・ラングリッシュ(「台風の目」「ブライズ・オブ・クライスト」)、アルとニッキーが逃避行の道中、2人の車に忍び込んでいた怪しい中年男、だが単なる善人で2人を妻と暮らす自宅に泊めてくれることになったエイドラー役でミランダ・オットーの実父バリー・オットー(「ハーモニー <1996年版>」「ダンシング・ヒーロー」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)、アルとニッキーが泊まるモーテルの風変わりなオーナー役にマックス・カレン(「華麗なるギャツビー」「わが青春の輝き」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)が扮している。

フィルム・ノワールは1940〜50年代にかけてハリウッドで多数製作された、男女の恋愛を絡めた犯罪映画のジャンルを指し、ともにハンフリー・ボガートとローレン・バコール主演の「キー・ラーゴ」(1948)や「三つ数えろ(The Big Sleep)」(1946)などがフィルム・ノワールの代表作として知られるが、本作はオージー映画、当然というかボガートやバコールのような洗練された大人の危険なドラマにはならず、主人公の2人は10代でこそないものの“若造”である。服装もいたってカジュアルな2人が警察と性犯罪者に追われる身となりオーストラリアのアウトバックを車で逃げる様子を描いたロード・ムーヴィーで、往年の白黒フィルム・ノワールとは一味どころかまるで異なる雰囲気を持っている。
また、本作の特筆事項は最初から最後まで音楽、つまりBGMが一切、使用されていない点で、エンド・クレジットも無音のままという徹底ぶり。BGMを流さないことによってあえて緊張感を高めたかったというベネット監督の思惑からだそうで昨今のドラマ映画としては特筆に値するが、映画を観終わっても実はBGMがなかったことに気づかない観客も多いというのは不思議な話でもある(記者も気づかなかった)。
マット・デイとフランセス・オコナーの起用はバッチリのキャスティングで、窃盗犯カップルだがお互い愛し合う2人をとても魅力的に演じている。特にアル役のデイは本作の3年前に日米でもヒットした「ミュリエルの結婚」(1994)でトニ・コレット演じたヒロイン、ミュリエルに思いを寄せる冴えない青年役を、その2年後(本作の前年)にはガイ・ピアースとクローディア・カーヴァン主演の「月に願いを」(1996)でやはりカーヴァンに思いを寄せる冴えない青年役と立て続けに似たような脇役を演じた後で、まさかこんな正統派の二枚目役がピタリとハマる演技を見せる映画に、それも主演するとは誰が思っただろう。非常に奇遇な話だが、本作の紹介記事を書こうと思い立ち、以前観たことがある本作を再度DVDで観賞した直後の2025年3月下旬、記者はシドニーで開催された映画関係者の知人のバースデイ・パーティに招かれて参加、パーティ会場でこちらも招待されていたマット・デイと初めて会うことができた。記者が彼に歩み寄り握手してもらおうと片手を差し出すとにこやかに握手してくれたばかりか自分の方から先に「やあ、(僕の名前は)マットだよ(Hi, I’m Matt)」と名乗ってくれた。記者も日本語雑誌の記者であると自己紹介して「ちょうどあなたの映画『キス・オア・キル』の紹介記事を書こうとしていたところ」だと伝えると、「なんでまたあんな古い映画を?」と笑いながらも喜んでくれ、ほんの少し前に家族旅行で日本へ行き、とても楽しかったことも話してくれた。本作公開から30年近くが過ぎていたが53歳になったマット・デイは実年齢以上に若々しく、そしてまだまだ十分ハンサムかつフレンドリーだった(※こちらも快くジャパラリア公式インスタグラム用に撮影を許可してくれたマット・デイのそのパーティでの写真はこちら!)

一方、イギリス生まれでオーストラリアはパース育ちのオコナーは本作の2年後、ジェイン・オースティンの小説「マンスフィールド・パーク」(1999)の映画化に際しヒロインに抜擢され華々しくイギリス映画界に進出、ハリウッド映画でもスティーヴン・スピルバーグ監督の「A.I.(A.I. Artificial Intelligence)」(2001)で不治の病により冷凍保存されている息子の代わりにハーリー・ジョエル・オスメント扮する少年ロボットを引き取る夫婦の妻役という重要な役どころを演じた。本作では可憐な面影を残しつつも時に気性の激しい女泥棒を完璧に演じている。余談ではあるがオコナーの顔立ちは、ダリオ・アルジェント監督のオリジナル版「サスペリア」(1977)やブライアン・デ・パルマ監督の「ファントム・オブ・パラダイス(Phantom of the Paradise)」(1974)の主演で知られる当時のジェシカ・ハーパーに非常によく似ている。


オコナー演じるニッキーは幼いころ、母親が男にガソリンをかけられ焼殺されるのを目の前で見たトラウマを抱え、それが原因か夢遊病者でもあることが映画の中で分かる。道中で起こる殺人事件は、アルが寝ている間、夢遊病によりベッドから起き出したニッキーによる無意識の中での犯行なのか!? また、アルにはジッパー・ドイルが少年に性的暴行を加えている様子を収めたヴィデオ・テイプの、ドイルと少年の性行為のシーンの直後に映し出された、今度はドイルと成人女性の性行為の映像の女性がニッキーに似ていることも気になっている。全体的にハラハラドキドキするというほどではないが、フィルム・ノワールに欠かせないサスペンスの要素もちゃんと踏襲したストーリー展開にもご注目。
STORY
アル(マット・デイ)とニッキー(フランセス・オコナー)は、ニッキーがバーで目をつけた男に誘われるふりをしてその男の部屋へ行き、相手に睡眠薬を飲ませ金品を巻き上げるという窃盗犯カップル。ある日、いつもの手で眠らせたつもりの男がホテルの部屋で死んでしまい、焦った二人は男のブリーフケイスを持ちその場から逃げるが、中に入っていたのは1本のヴィデオ・テイプで、そこに映っていたのはフットボール界の元スター選手だったジッパー・ドイル(バリー・ラングリッシュ)が年端のいかない少年と性行為に及んでいる映像だった。ジッパーと警察の両方から追われる身となった二人は車で逃避行を続けるが、ニッキーはまだ幼かったころ、母親が目の前で焼殺されるというショッキングな現場を目撃したことがトラウマとなっており…。
●クリス・ヘイウッド出演のその他のオージー映画:「ジンダバイン」「キス・オア・キル」「シャイン」「ミュリエルの結婚」「最も危険な悪女(おんな)」「英雄モラント/傷だらけの戦士」
●バリー・オットー出演のその他のオージー映画:「リベンジャー 復讐のドレス」「華麗なるギャツビー」「オーストラリア」「キス・オア・キル」「ハーモニー(1996年版)」「ダンシング・ヒーロー」
●マックス・カレン出演のその他のオージー映画:「華麗なるギャツビー」「オーストラリア」「ジンダバイン」「キス・オア・キル」「わが青春の輝き」「サンデイ・トゥー・ファー・アウェイ」
「キス・オア・キル」予告編


