
※2025年9月8日更新
「マッドマックス:フュリオサ」
原題:Furiosa: A Mad Max Saga
(オーストラリア、日本ともに2024年公開/2時間28分/MA15+/アクション/DVD、Netflix、Foxtel、Binge、Apple TV、Googleプレイで観賞可能)
監督:ジョージ・ミラー
出演:アニャ・テイラー・ジョイ/クリス・ヘムズワース/トム・バーク/アリーラ・ブラウン/ラッキー・ヒューム
(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)
オーストラリアが世界に誇るアクション映画「マッドマックス」シリーズ第5作となる「マッドマックス:フュリオサ」は、4作目「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015)で初めて登場した女戦士フュリオサの若き日、つまり物語の時系列でいうと5作目の方が4作目より前の出来事を描いたオーストラリアとアメリカ合作のスピンオフ映画として2024年に仏カンヌ映画祭でワールド・プレミアを飾り、同年、全世界で劇場公開された。1979年のシリーズ1作目から一貫して5作すべての監督を務めたジョージ・ミラーの下、タイトル・ロールであるヒロイン、フュリオサ役に4作目のシャーリーズ・セロンに代わって、ともに2020年公開のNetflix配信の連ドラ「クイーンズ・ギャンビット(The Queen’s Gambit)」や劇場映画「EMMA エマ」の主演で知られるアメリカ人女優アニャ・テイラー・ジョイ、悪のバイカー軍団のリーダー、ディメンタス役をオージー・ハリウッド・スター、クリス・ヘムズワースが演じた。シドニーのディズニー・スタジオ(旧フォックス・スタジオ)ほか全編シドニー及びシドニーが州都であるニュー・サウス・ウェールズ州で撮影が行われ、全豪映画界において最も権威ある第14回オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー(AACTAの頭文字から“アークタ”と呼ばれる)賞(旧オーストラリア映画協会賞)では作品、監督、主演女優(テイラー・ジョイ)、助演男優(ヘムズワース)、助演女優(フュリオサの子供時代役のアリーラ・ブラウン)、脚本、編集、作曲、キャスティング、視覚効果賞など主要15部門にノミネイトされ、撮影、美術、衣装デザイン、音響、ヘア&メイクアップ賞の5部門を受賞した。
タイトル・ロールであるヒロイン、フュリオサを演じるアニャ・テイラー・ジョイ

バイカー軍団バイカー・ホードを率いる悪のリーダー、ディメンタス役のクリス・ヘムズワース

その他の主要キャラクターではシタデルで成長したフュリオサが心を通わせていく、シタデルの警護隊長ジャック役にイギリス人俳優トム・バークが起用された。
シタデルの警護隊長ジャック役にイギリス人俳優トム・バーク

フュリオサの少女時代を演じたアリーラ・ブラウン

フュリオサ以外にも前作「怒りのデス・ロード」からの“続投組”のキャラクターが多数登場し、まずシタデルに君臨する悪の帝王イモータン・ジョー役は前作ではヒュー・キース・バーンだったが残念なことにキース・バーンは2020年に73歳で他界したため、代わってラッキー・ヒューム(「マクベス ザ・ギャングスター」)が起用され、また、こちらも前作ではリチャード・カーターが演じた武器将軍(The Bullet Farmer)も2019年にキース・バーンより若い65歳にして他界したカーターに代わりリー・ペリーが務めた。イモータン・ジョーは被り物ありの白塗りキャラだが、武器将軍役のリー・ペリーは素顔自体はリチャード・カーターにさほど似ているわけではないものの、本作では非常によく似た見た目のキャラになりきっている。
シタデルに君臨する悪の帝王イモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)

イモータン・ジョーと武器将軍(リー・ペリー)

続投組はほかにもいて、イモータン・ジョーの息子リクタス・エレクタスは前作同様、元プロレスラーから俳優に転身したネイサン・ジョーンズ、人食い男爵(The People Eater)役も前作と同じジョン・ハワード(「ジンダバイン」「ブッシュ・クリスマス」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)、オーガニック・メカニック(生体整備士)役も前作に続きアンガス・サンプソン(「ファット・ピッツァ」)がそれぞれ演じた。
左からリクタス・エレクタス(ネイサン・ジョーンズ)、スクロータス(ジョシュ・ヘルマン)、イモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)、人食い男爵(ジョン・ハワード)

人食い男爵(ジョン・ハワード)

オーガニック・メカニック(アンガス・サンプソン)

興味深いのは、前作では白塗り軍団ウォー・ボーイズの主要キャラのひとりスリット役だったジョシュ・ヘルマン(「アニマル・キングダム」)が、本作では醜悪な特殊メイクによりイモータン・ジョーのもうひとりの息子スクロータスという全く異なる役で再登場。さらにはイモータン・ジョー役のラッキー・ヒュームは本作でもう一役、ディメンタスに仕える片目のリズデイル・ペル役にも扮している。一人二役はヒュームだけでなく、実生活でのクリス・ヘムズワースの妻であるエルサ・パタキーが、冒頭でさらわれるフュリオサをフュリオサの母とともに馬で追う鉄馬の女たち(The Vuvalini)のひとりと、こちらもディメンタスに仕える女戦士ミスター・ノートン役、前者は善玉、後者は残忍な悪玉で登場。ヒュームもパタキーもそれぞれ印象に残るキャラでありながら言われなければ同じ俳優が演じたとは誰にも分からない二役を演じ分けており大成功。リアリティが何よりも求められる映画において、双子役や、別人だが顔が瓜二つの2人のキャラクターを除き、同一俳優が見た目も全く異なるキャラクターで1本の映画の中に出てくるのはかなり珍しいが、ルカ・グァダニーノ監督のリメイク版「サスペリア」(2018)ではティルダ・スウィントンが二役どころか一人三役で出演しているから(しかも3人とも準主役級の非常に重要なキャラクター!)、最近の映画界の流行りの一種でもあるのだろうか。
前作とは全く異なる役柄で出演のジョシュ・ヘルマン

ラッキー・ヒュームはイモータン・ジョーと片目のリズデイル・ペル役の一人二役で出演

前半では素顔のまま善玉役で、後半ではご覧のような特殊メイクにより残忍な悪玉の一人二役で出演のエルサ・パタキー

上記以外では特に大きな見せ場があるわけではないが、デイヴィッド・フィールド(「ワイルド・ボーイズ」「サンプル・ピープル」「トゥー・ハンズ/銃弾のY字路」)と、元プロラグビーのスター選手から俳優に転身したイアン・ロバーツ(「リトル・フィッシュ」)、ラヘル・ロマーン(「パルス」「ザ・プリンシパル」)も出演。以上、アニャ・テイラー・ジョイとトム・バーク、そしてスペイン出身のエルサ・パタキーの3人を除き子役のアリーラ・ブラウンに至るまで全員オージー俳優で固めてある。
デイヴィッド・フィールド(左)とリズデイル・ペル役の際のラッキー・ヒューム

イアン・ロバーツ(左)とクリス・ヘムズワース

アクション・シーンの見事さは前作に負けず劣らず、いや9年前の前作からCG技術などはまたさらに進化し続けていることが素人目にもよく分かる圧巻のスケイルが本作の最大の見どころ。加えて、アニャ・テイラー・ジョイの演技も素晴らしい。シャーリーズ・セロンの“完全大人時代のフュリオサ”は終始クールだった一方、テイラー・ジョイは“若き日のフュリオサ”で、強い女戦士には変わりないがあどけない表情も残し、セロンとはまた異なる“初々しいフュリオサ”を魅力的に演じている。
前作に負けず劣らずの圧巻のアクション・シーンの数々

素晴らしい演技を見せるアニャ・テイラー・ジョイ

ただ、「怒りのデス・ロード」が米アカデミー賞では主要10部門にノミネイトされ6部門を受賞したにもかかわらず、「フュリオサ」はオスカーからは丸無視され1部門も候補にすらならなかった。同じシリーズでありながらこの差は一体?と思いたくもなるが、両者を観比べるとなるほどとうなずけるのも事実。前作同様、いやそれ以上の巨費を投じた一大アクション巨編ではあるが映画1本を5章に分けた同シリーズ過去最長の2時間半弱という長尺で、一度ならず何度か中だるみを感じさせるのも事実。数字の上でも「怒りのデス・ロード」が1億5,000万ドルの製作費に対して全世界で2倍以上の3億8,000万ドルもの興収を弾き出した一方、「フュリオサ」は製作費1億6,800万ドルをかろうじて上回る1億7,400万ドルの興収に終わった。
残念な点2つ目はディメンタス役のクリス・ヘムズワース。ヘムズワースは「ネイバーズ」と並ぶオーストラリアの人気長寿ソープ・オペラ「ホーム&アウェイ」に2004年から2007年までの3年以上、実に194話に出演して人気を博した後、2009年版の劇場映画「スター・トレック」でハリウッド・デビュー、「マイティ・ソー」と「アベンジャーズ」両シリーズにより世界的大スターの地位を築き上げたことで知られるが、本作は豪米合作とはいえそんなヘムズワースが出演した“初のオーストラリア映画”である。“凱旋帰国出演作”と言っても過言ではない本作でヘムズワースがどんな悪役ディメンタスを見せてくれるのかと思いきや、キャラクラー設定にも、映画の中でのヘムズワース自身にも悪役の、それもリーダーとしてのカリスマ性がなく、滑稽な海賊ルックの情けない男にも見える。これはヘムズワースに演技力がないからというわけではなく前述の中だるみ同様、脚本に難ありだったと思わざるを得ない。ディメンタスはフュリオサと並んで重要な役柄のはずだが、“存在感”という点では主役のアニャ・テイラー・ジョイはおろか、警護隊長ジャック役のトム・バークやイモータン・ジョー役のラッキー・ヒュームにも及ばない。前作が遺作となったヒュー・キース・バーンのイモータン・ジョーに負けず劣らずのカリスマ性を感じさせたラッキー・ヒュームのイモータン・ジョーを見るにつけ、前作同様イモータン・ジョーを最も重要な悪役に据えた脚本にしてもよかっただろうにと思うのは記者だけだろうか。
クリス・ヘムズワース

警備隊長ジャック(トム・バーク)とフュリオサは心を通わせていき…

警備隊長ジャック役のトム・バーク

ラッキー・ヒュームがカリスマ性抜群のイモータン・ジョーを演じる

だが、それら残念な点を抜きにすると、最初の2章では美少女アリーラ・ブラウン演じるフュリオサの少女時代が丁寧に描かれる。3章で初めてテイラー・ジョイの成長したフュリオサが登場、悪が支配する荒涼とした近未来の地を舞台に、幼いころ自分の目の前で殺された母の仇を討つことだけを胸に、口の利けない少年のふりをして強く成長していくフュリオサは、やはり凛々しく颯爽としていてかっこいい。
STORY
核戦争によって砂漠化した近未来のオーストラリア、地表の大部分が不毛な中、まだ木々や作物が育つ貴重な村落「緑の地(The Green Place)」で平和に暮らしていた幼い少女フュリオサ(アリーラ・ブラウン)は、悪のバイカー集団「バイカー・ホード」に見つかりリーダー、ディメンタス(クリス・ヘムズワース)のもとへ連れ去られる。フュリオサの母メアリー(チャーリー・フレイザー)はすぐに後を追い、いったんはフュリオサの救出に成功するも捕らえられ、フュリオサの目の前で殺されてしまう。こうしてディメンタスの娘として育てられることになったフュリオサだったが、水と作物に恵まれた別の土地「シタデル」を発見したディメンタスはシタデルを支配する悪の帝王イモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)との交渉に際しフュリオサを差し出す。フュリオサはふとした隙にイモータン・ジョーの居城から逃げ出し、だがシタデルに留まったまま口の利けない少年のふりをして身を潜める。それから10年ほどが過ぎ、成長したフュリオサ(アニャ・テイラー・ジョイ)はイモータン・ジョーの息子スクロータス(ジョシュ・ヘルマン)の信頼を得ながらもシタデルからの脱出の機会を狙っていた。
●ジョン・ハワード出演のその他のオージー映画:「マッドマックス:フュリオサ」「マッドマックス 怒りのデス・ロード」「ジンダバイン」「テイク・アウェイ」「ジャパニーズ・ストーリー」「月に願いを」「クライ・イン・ザ・ダーク」「ブッシュ・クリスマス」
「マッドマックス:フュリオサ」日本版予告編


