眩しくきらめいたあの夏の日々…(映画「君といた丘」)

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※2025年9月8日更新

君といた丘

原題:The Year My Voice Broke

(オーストラリア1987年、日本1990年公開/103分/M/青春ドラマ/DVDで観賞可能)

監督:ジョン・ダイガン
出演:ノア・テイラー/ベン・メンデルソーン

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 ジェフリー・ラッシュがオーストラリア人俳優として史上初の米アカデミー主演男優賞を受賞したオージー映画「シャイン」(1996)で主人公の大人時代を演じたラッシュに対し、ラッシュに引けを取らない存在感の青年時代役の好演やアンジェリーナ・ジョリー主演の「トゥームレイダー(Lara Croft: Tomb Raider)」シリーズのブライス役で知られるようになるノア・テイラー(「ヒーダイドウィズファラフェルインヒズハンド」「ニコールキッドマンの恋愛天国」)がまだ無名だったデビュー翌年の1987年に主演したオーストラリアの青春映画。

左から本作でオーストラリア映画協会賞助演男優賞受賞のベン・メンデルソーン、それぞれ同主演男女優賞候補となったロイン・カーメン、ノア・テイラー
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マッドマックス」シリーズのジョージ・ミラーがプロデューサーのひとりに名を連ね、ヒュー・グラント、サム・ニール、エル・マクファーソン共演の別のオージー映画「泉のセイレーン」(1994)のジョン・ダイガン監督(「ニコールキッドマンの恋愛天国」)の下、ノア・テイラー扮する主人公ダニーが恋心を抱く幼馴染みの少女フレヤ役に日本では無名だがロー・カーメンの名でミュージシャンとしても活躍するようになったロイン・カーメン(「イーストウエスト101 ②」)、さらにフレヤが恋するトレヴァー役をテイラー同様その後ハリウッドにも進出したベン・メンデルソーン(「アニマルキングダム」「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男<Darkest Hour>」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)が演じた。1960年代前半の、シドニーが州都であるニュー・サウス・ウェールズ州の田舎町を舞台に、この3人の高校生を主軸とした、一昔前の表現で例えるなら“甘酸っぱくてほろ苦い三角関係”を描いた青春映画で、全豪映画界において最も権威ある第29回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)主要7部門にノミネイトされ、作品、監督、助演男優(メンデルソーン)、脚本賞の4部門を受賞した。受賞は逸したもののテイラーとカーメンもそれぞれ主演男女優賞候補となり、受賞したメンデルソーンを含め、全員まだ10代だった3人が3人とも十分その演技力を認められたことになる(主演男女優賞のほか受賞を逸したのは編集賞)。

17歳当時のノア・テイラーが等身大の演技で主人公ダニー役を好演
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 シャーリーズ・セロン主演の「トリコロールに燃えて(Head in the Clouds)」(2004)やジョン・ボン・ジョヴィ主演の「妻の恋人、夫の愛人(The Leading Man)」(1996)などのオージー監督ジョン・ダイガンが自らの少年時代を基に脚本も手がけた本作は、ギークな役を演じさせらたら並ぶ者なきノア・テイラーのために書かれたようなキャラクター設定で、こちらもダイガン監督による1991年の続編「ニコールキッドマンの恋愛天国」でも再度テイラーが主人公ダニーを演じている。ちなみにその91年の続編、邦題からも分かる通りニコール・キッドマンも主要キャラのひとりとして出演しており(※実際の主演はノア・テイラーと、後に「ミッション:インポッシブル2」でヒロインを演じるイギリス人女優タンディウェ・“タンディー”・ニュートン。ほか、こちらも無名時代のナオミ・ワッツも脇役で出演)、実は映画自体の完成度としては続編の方がいいというファンも多く、通常、何作にもわたるシリーズものは別として続編は必ずコケるといわれる中、非常に珍しいことでもあるので機会があればそちらもぜひ観賞されたし。本作も「ニコール・キッドマンの恋愛天国」も、日米のアイドル映画にありがちな安っぽさを微塵も感じさせず、主要キャラの3人に、3人とも当時まだ無名だった俳優を起用したこともあって、彼らの背伸びしない等身大の魅力がリアルに伝わってくる。ダイガン監督は決して青春映画ばかり手がけているわけではないが、演技経験の乏しい若い俳優の演技指導に卓越した才能を発揮するタイプでもある。

ダニーは幼馴染みのフレヤ(ロイン・カーメン)のことが好きだが…
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 3人以外の出演者では、フレヤとダニーがたまに立ち寄り交流を持っている、線路脇にポツンと立つ列車の車両を改装したトレーラーハウスにひとり暮らしながら鉄道線路切り替え作業員として働く作家志望の男性で、フレヤとダニーに優しいジョナー役に「マッドマックス2」(1981)と同シリーズ3作目の「マッドマックス/サンダードーム」で(1985)で主人公マックスに協力するジャイロ・キャプテン役のブルース・スペンス(「オーストラリア」)、赤ん坊のころからフレヤを養女として育てている夫妻役にグレーム・ブランデル(「アリブランディを探して」「アルヴィンパープル」)とリネット・カラン(「ジャパニーズストーリー」「マイマザーフランク」「恋に走って」「アルヴィンパープル」)が登場する。

 主要キャラ3人の中ではやはり主役であるノア・テイラーが断然光る。撮影当時17歳くらいだったテイラーは本作が映画出演2作目にして初の主演という大抜擢だったが、本当にこんなに個性的な少年、どこで見つけてきたのだろうと唸ってしまうほど役にピッタリはまっている。華奢な体型でいじめっ子たちの標的だがいじめられても気にしない。傷つきやすい繊細な年ごろだが芯はしっかりとしていて強い。テイラーはそんな少年ダニーを見事なまでに演じきっている。

 フレヤ役のロイン・カーメンも、美しい少女ではあるが垢抜けてはおらず田舎町にいそうな素朴なルックスで、赤いマニキュアがはがれかけているのもリアルだし、ダニーとトレヴァーとファームでのバイトの際に草むらにしゃがんで用を足すところを2人に見られトレヴァーに冷やかされても恥じらうそぶりも見せない堂々とした田舎の女の子を体現し好感が持てる。

フレヤはトレヴァー(ベン・メンデルソーン)に引かれ…
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 唯一引っかかるのがベン・メンデルソーンだ。といってもメンデルソーンが悪いというわけではない。ノア・テイラーと同い年でまだ10代だったメンデルソーンは前述の通り3人の中で本作から唯一、AFI賞助演男優賞初候補にして初受賞を勝ち取ったのだから、その演技に文句のつけようはないのだが、本来メンデルソーンもナイーヴな青年役を得意とする俳優である。もちろんそういう役ばかりではないが、共演がテイラーである本作のような場合だと、時として2人の印象がダブって見えてしまうこともある。だがあくまでも“引っかかる”という程度で、全体的には違和感なく見せてくれる。メンデルソーンは本作の7年後の1994年、同じダイガン監督の「泉のセイレーン」にも起用されており、そちらは主要キャラではないがダイガン監督もメンデルソーンの演技が気に入ったということだろう。

主要キャラを演じた3人の中で本作から唯一AFI賞助演男優賞を受賞したベン・メンデルソーン
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 映画の原題を日本語に訳すと「僕が声変わりした年」という意味で、大人になる前の少年ダニーを中心に、とある田舎町での一夏の出来事を描いた本作は、生きた時代や場所は異なれど日本人にとってもあっという間に通り過ぎてしまった10代の夏の日々のことを、眩しくきらめいた一瞬の出来事を鮮やかに思い出させてくれるかもしれない。

【セリフにおける英語のヒント】ダニーが自身を説明するモノローグで、「僕の家はこの町で一番のホテル。…というか町で唯一のホテル」と言う“ホテル”とは、日本人がイメージするホテルではなく要するに単なるパブである。オーストラリアのパブにはかつて、店の上階に宿泊施設を設けることが義務付けられており、古くからあるオーストラリアのパブの多くが現在でも“XXホテル”またはこちらもホテルを意味する“XXイン”という店名なのは、その名残である。つまりホテルの体裁を取って初めてアルコール類を提供することが許されたわけで、パブの場合、ホテルといっても各部屋にベッドがあるだけでトイレとシャワーは共同といった簡素な造りのところがほとんどだった。

【映画に登場する実在のあれこれダニーが町の映画館の前を通りかかった際、顔馴染みの映画館の主に「また『ザ・フォービドゥン・プラネット』を上映してくれることある?」と聞くのは、日本でも「禁断の惑星」という邦題で公開された1956年のアメリカのSF映画のタイトル。さらに続けて「ブリジット・バルドー(の映画)は?」と聞くのは1950〜1960年代に日本を含む世界中でセックス・シンボルとして名を馳せたフランス人女優のことだが、映画館の主に「どうせ君は(映画館に)入れないさ」と返すのは、バルドーの映画はセクシーすぎて年齢制限が課されるからまだ少年のダニーには早すぎるという意味。

STORY
 1962年、ニュー・サウス・ウェールズ州の田舎町に住む15歳の高校生ダニー(ノア・テイラー)は、ダニーよりほんの少し年上の幼馴染みで今でも親友と呼べるほど仲のいいフレヤ(ロイン・カーメン)に片思い中だが、当のフレヤは同じ高校の人気者であると同時に町の問題児でもあるトレヴァー(ベン・メンデルソーン)のことが好き。トレヴァーもフレヤに振り向き、トレヴァーはいじめられっ子たちの標的になりやすいダニーのことを守ってやるようになり、いつしか3人は固い絆で結ばれていく。そんなある日、ダニーは町外れにあり町の住人たちから“幽霊屋敷”と呼ばれている空き家と、フレヤ自身も知らない彼女の出生の秘密に何か関係があることを知り…。

●ベンメンデルソーン出演のその他のオージー映画(テレビドラマ含む):「美しい絵の崩壊」「アニマル・キングダム」「オーストラリア」「サンプル・ピープル」「シークレット・メンズ・ビジネス」「エイミー」「ハーモニー(1996年版)」「泉のセイレーン「君といた丘」

「君といた丘」予告編

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