
※2025年12月19日更新
「ザ・クラック」
原題:The Craic
(オーストラリア1999年公開、日本未公開/89分/MA15+/コメディ/DVDで観賞可能)
監督:テッド・エメリー
出演:ジメオイン/アラン・マクキー/コリン・ヘイ
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1994〜1995年に自身の名を冠したテレビコメディ番組を持っていたほどの人気を誇り、オーストラリアを代表するコメディアンのひとりジメオインの劇場映画デビュー作。オーストラリアに不法滞在する2人のアイルランド人青年の姿を描いたロード・ムーヴィー風コメディで、ジメオインとアラン・マクキーがこの青年役に扮しており、2人はともにアイルランド出身。ジメオイン自ら原案・脚本を手がけ、エグゼクティヴ・プロデューサーのひとりとしても名を連ねている。また、劇中に登場するIRA(アイルランド共和軍)のグループのひとりに1980年代前半に日米でも大ヒットを放ったオージー・バンド、メン・アット・ワークのリード・ヴォーカリスト、コリン・ヘイ(「ハーモニー <1996年版>」)、そして日本人には馴染みがないがヴェテラン・オージー俳優チャールズ‘バッド’ティングウェル(「ザ・キャッスル」「英雄モラント/傷だらけの戦士」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)がメロン・ファームのオーナー役で、また、オーストラリアに不法滞在する2人を追う移民局の職員役でニコラス・ベル(「エルヴィス」「キャス&キムデレラ」「テイク・アウェイ」「シャイン」)が出演。全豪テレビドラマ界、それも特にコメディを得意とするテッド・エメリー監督(「キャス&キムデレラ」)の下、ニュー・サウス・ウェールズ州シドニー、ブロークン・ヒル、ウェントワース、ヴィクトリア州メルボルン、クイーンズランド州ゴールド・コーストのサーファーズ・パラダイス、とオーストラリア3州で撮影され、封切り第1週目の興収がオーストラリア映画としては歴代2位の200万ドルを突破する大ヒットを記録した。
親友同士のアイルランド人青年ウェスリー(アラン・マクキー:左)とファーガス(ジメオイン)

アイルランド人の友人を持つ人ならよく分かるだろうが、アイルランド人の話す英語は日本人の耳には極めて難解で、アイリッシュ・パブで彼らと一緒にギネス・ビールを飲みながらアイルランド気分を満喫…などとしゃれ込んでも、それが混み合うパブでガヤガヤとうるさい状況では彼らの話の半分も理解できないというのが普通。だからといって、しょせんはネイティヴでない自分の英語力もその程度と落ち込む必要はあまりなく、本作の中でも、映画だから多少誇張されてはいるだろうが、2人の話す英語が「さっぱり分からない」とオージー・キャラクターたちが答えるシーンが何度か登場する(映画なのでアイルランド訛りはかなり控えめ)。
ジメオイン

舞台はアイルランドからニュー・サウス・ウェールズ州シドニーのボンダイ・ビーチ、クイーンズランド州ゴールド・コーストのサーファーズ・パラダイス、そしてフルーツ・ファームへとオーストラリア国内を転々とする。車で移動するのは中盤以降とはいえロード・ムーヴィーならではの風景描写が楽しめるが、唯一の、そして最大の難点は、残念ながらこの2人のキャスティング(もしくは設定)にある。
IRAのリーダーの恨みを買って命を狙われるハメになりアイルランドから逃れた2人は、滞在期限がとっくに切れてしまった観光ヴィザでオーストラリアに居残り、今度は移民局の職員に追われる。そこへ2人を執念深く追ってオーストラリアまでやってきたIRAの一味まで加わり…という要するにドタバタコメディ風のストーリー展開なのだが、ドラマのタイトルでもある“クラック”がイマイチ生かされていない。アイルランドのお国言葉ゲール語で“楽しい時間”を意味するクラックは劇中、その日暮らしで人生にさしたる目的も持てない2人が根なし草のような生活を送りながら、「楽しけりゃいいじゃん」と少々投げやりに生きる姿を象徴しているわけだが、そんな青年の心情を描くには、正直いってこの2人の俳優では少々歳を取りすぎている。
二十歳そこそこの、それこそ“青年”と呼ぶにふさわしいキャラクターがあちこち逃げまどう姿を描いた映画であれば、無気力に生きる彼らにも救いが見いだせるが、大の大人2人がそれをやっても共感を呼ぶ部分は少ない。ジメオインは本作出演時33歳だったから、決してまだオヤジの域に達していたわけでもないのに、気の毒なことにその年齢にして既に額の左右の髪の毛がズルッと後退した老け顔で、40過ぎといわれても納得できてしまうし、劇中、旅先でオージーの女の子と“青春”しちゃうにはどう考えても無理があり、痛々しく見えるシーンもある。
いずれにしてもコメディアン、ジメオイン入魂の本作、日本人に果たしてどこまで彼のコメディ・センスが通じるか、できるだけ大勢の友達とDVD観賞会を開いてみるのも面白いかもしれない。もちろん、調達できればアイルランド人の友達もぜひ一緒に。
【映画に登場の実在のオージー・テレビドラマ】登場人物たちのセリフに何度か登場する「ネイバーズ」は1985年から続くオーストラリアの人気長寿ソープ・オペラでカイリー・ミノーグが歌手デビュー直前の1986年から88年まで出演していたことでも有名。「ネイバーズ」はイギリスやアイルランドなど海外でもオンエアされ人気を博したため、それが本作のアイルランド人キャラクターたちも同番組のことを知っていた理由で、室内にカイリー・ミノーグのポスターが貼られているシーンも出てくる。また、本作が公開されたのは1999年だが物語の設定がその10年以上前の1988年となっているのは、カイリー・ミノーグが出演していたころの「ネイバーズ」を設定に盛り込みたかったからだと思われる。
STORY
1988年、アイルランド人青年ファーガス・モンタギュー(ジメオイン)とウェスリー・マレイ(アラン・マクキー)は、ふとしたことでIRAのリーダーの恨みを買い、命を狙われたことから国を逃れオーストラリアへ飛ぶ。観光ヴィザのため当然ちゃんとしたバイトには就けず、路上で信号待ちの車の窓拭きをして小銭を稼ぐ日々(これも立派な違法就労)。観光ヴィザの期限も切れ、今度は移民局の職人に追われる身となり、国内を転々と逃げまどうハメに…。
●チャールズ‘バッド’ティングウェル出演のその他のオージー映画:「ジンダバイン」「ザ・ウォグ・ボーイ」「ザ・クラック」「エイミー」「ザ・キャッスル」「クライ・イン・ザ・ダーク」「ウインドライダー」「英雄モラント/傷だらけの戦士」
「ザ・クラック」予告編


