
※2025年9月8日更新
「トエンティマン・ブラザーズ」
原題:The Hard Word
(オーストラリア2002年、日本2003年公開/102分/MA15+/クライム・アクション/DVD、Apple TVで観賞可能)
監督:スコット・ロバーツ
出演:ガイ・ピアース/レイチェル・グリフィス/ジョエル・エジャトン
(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)
いずれもハリウッド・スターとなったガイ・ピアースとレイチェル・グリフィス、ジョエル・エジャトンの3人のオージー俳優が共演した2002年公開の豪英合作クライム・アクション映画。オージー映画「プリシラ」(1994)で大ブレイクしたガイ・ピアース主演の下、強盗が“本業”の3兄弟の長男デイルをピアースが演じ、3兄弟の末っ子シェイン役に本作と同じ2002年に「スター・ウォーズ」エピソード2のオーウェン・ラーズ役で海外でも注目されるようになってきたばかりのエジャトン、デイルの妻キャロル役にはトニ・コレットが米ゴールデン・グローブ賞にノミネイトされたオージー映画「ミュリエルの結婚」(1994)でコレットと共演し、同映画のヒットを機に海外に進出、1998年の「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ(Hilary and Jackie)」で米オスカー助演女優賞候補になったグリフィスが扮している。シドニーとメルボルンで撮影され、全豪映画界において最も権威ある第44回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)では助演男優賞(エジャトン)と助演女優賞(グリフィス)にノミネイトされた。
強盗が“本業”のトエンティマン3兄弟(左から次男役のデイミエン・リチャードソン、三男役のジョエル・エジャトン、長男役のガイ・ピアース)

ガイ・ピアースとレイチェル・グリフィスが夫婦役で共演

トエンティマン家の3兄弟はそれぞれに性格が全く異なるという設定で、3人とも個性的だが、中でもエイドリアン・ブロディが2度目のオスカー主演男優賞を受賞した2024年の「ブルータリスト(The Brutalist)」では受賞は逸したものの初のオスカー助演男優賞にノミネイトされたガイ・ピアース(「ホールディング・ザ・マン—君を胸に抱いて—」「アニマル・キングダム」「月に願いを」「プリシラ」)の存在感はさすが。ピアース演じるデイルは薬物依存症という設定ではないが、目つきや表情など、時にまるでジャンキーのような雰囲気を漂わせ、だがあくまでもクールなハンサムぶり。
3兄弟の長男デイル役のガイ・ピアース


主要キャラの中で紅一点のレイチェル・グリフィス(「エイミー」「ハーモニー <1996年版>」※ほか彼女が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)はデビュー当時から一貫して“個性派”であることを売りにしてきており、決してニコール・キッドマンのように美貌を武器にした女優ではなく、事実どの作品でも“美女役”というのはなかったが、本作では髪をブロンドに染め、タバコ片手にクールに構える絵に描いたようなブロンド美人を演じる。長い小指の爪でコカインを吸入したり、セクシーなドレスに身を包んでヴーヴ・クリコのグラスを傾けたりする姿がちゃんとサマになっている。グリフィスのイメージを180度覆すようなキャラクターだが、さすがはピアースと並んでオスカー候補歴を誇る実力派、バシッとキメており、彼女の美しさに初めて目からウロコ状態。「へえ、(美女役も)やればできるんじゃん!」というのが、おそらくグリフィスを知る大部分の感想だろう。そう考えると、グリフィスはあえてステレオタイプの美女役を巧みに避けてきたのかもしれない。キャロルはデイルの妻でありながら服役中のデイルの目を盗んで3兄弟の弁護士フランクとも関係を持っていそうな微妙な役どころで、キャロルは実のところ悪女なのか、それとも心はピュアなのか、そのあたりも本作を観る上でのキーとなる。
デイルの妻キャロル役のレイチェル・グリフィス

3兄弟の中で一番気性の激しい末っ子シェイン役のジョエル・エジャトン(「華麗なるギャツビー」「アニマル・キングダム」※ほか彼が出演したオージー映画一覧はこの画面一番下に掲載!)も、一方で母性本能をくすぐる憎めないタイプというキャラクターを好演(※ジョエル・エジャトンの名字は“Edgerton”という綴りからか日本では“エドガートン”と記載されるが“エジャトン”が正解)。

上記3人、いずれも日本でも知られる俳優のみについて触れたが、それ以外の俳優たちも、3兄弟の次男マル役のデイミエン・リチャードソンや、悪徳弁護士フランク役のロバート・テイラーなど非常に印象的な演技を見せる。また、フランクと繋がっている悪徳刑事2人組の若い方ケリー役にヴィンス・コロシモ(「華麗なるギャツビー」「テイク・アウェイ」「ランタナ」「ザ・ウォグ・ボーイ」)、3兄弟と組んでメルボルン・カップの賭け金を奪う2人のうちポール役に俳優であると同時に人気のオージー・コメディアンでもあるキム・ギンゲル(「マクベス ザ・ギャングスター」「ザ・ウォグ・ボーイ」「エイミー」「クライ・イン・ザ・ダーク」)が扮している。
悪徳弁護士フランク役のロバート・テイラー(左)

クライム・アクションなので残酷描写が全くないわけではないがほんの一部だし、コメディの要素もふんだんに盛り込まれているから、普段アクションものが苦手な人も、ガイ・ピアースが、レイチェル・グリフィスが思いっきりクールな本作に浸ってみることをおすすめ。
【映画に登場する実在のイヴェント】3兄弟が賭け金を強奪する競馬イヴェントは1861年に始まったオーストラリア国内でも最も知名度の高い、毎年11月の第1火曜日にメルボルンで開催される「メルボルン・カップ」。この日はメルボルンが州都であるヴィクトリア州は祝日で、メルボルンの会場だけでなく全国的に、競馬観戦用に着飾った男女(特に女性は帽子のデザインを競い合う)が街中に溢れお祭り騒ぎとなり、その日は仕事というオフィス勤務の人たちも、午後に始まるレイスに合わせて業務終了となり、会社側がアルコール類を含むドリンクや軽食を用意して社員全員、社内のテレビモニターで観戦しながら歓談するという光景も珍しくない。補足として、オーストラリアではメルボルン・カップでなくとも例えば月に一度の金曜日など夕方前のまだ早い時間から同じように会社がお酒や軽食を振る舞い、「今週も仕事お疲れ様」といった雰囲気で皆、早々に仕事を切り上げ社員同士の交流の場を設けている企業も少なくない。
【シーンに見るオージー・ライフスタイル】映画の最初の方のシーンで出所した3兄弟がビーチ沿いのカフェでくつろいでいるところにオーダーを取りにきたウェイトレスに、まず次男マルがフル・イングリッシュ・ブレックファストをオーダーし、その中に含まれるソーセージとトーストをさらに追加でと頼み、また「(トーストは)全粒粉パンで、バーベキュー・ソースとホット(※ホット・イングリッシュ・マスタード)…じゃなくてディジョン・マスタードを添えて」と伝え、続いて長男デイルが「トーストとお茶を」とオーダー、それに対してウェイトレスが「どのお茶にしますか?」と尋ねると「普通ので、トーストのパンは白で」と答える。このようにオーストラリアのカフェではトーストやサンドウィッチ用のパンが数種類ある中から選べるようになっている店も少なくなく、また、マルが頼んだような朝食には何も言わなければケチャップなどは一切添えられずオーダーの際に希望のソースを伝える必要があることも多い。お茶も多くの種類を取りそろえているカフェが多く、デイルのように「普通の」という場合、通常はイングリッシュ・ブレックファスト・ティーの紅茶を指す。
STORY
長男デイル(ガイ・ピアース)、次男マル(デイミエン・リチャードソン)、三男シェイン(ジョエル・エジャトン)のトエンティマン3兄弟は、“誰も殺さない/ケガさせない”をモットーに現金輸送車などを狙う強盗が“本業”で2年前からシドニーの刑務所に服役中。彼らの弁護士フランク(ロバート・テイラー)のおかげでやっと出所できたはいいが、フランクは悪徳弁護士で、こちらも悪徳刑事たちと組んで3兄弟に次の強盗の仕事を斡旋する始末。出所早々、新たな強盗に成功した途端、フランクたちは3兄弟を騙して再度刑務所に戻し、彼らの服役中、フランクはデイルの妻キャロル(レイチェル・グリフィス)と不倫していそうな雰囲気にデイルも気付く。そんなある日、フランクは出所と引き換えにさらなる強盗を3兄弟にけしかける。それは年に一度の大規模な競馬イヴェント、メルボルン・カップの当日、賭け金2,000万ドルを盗むという大仕事だった…。
●レイチェル・グリフィス出演のその他のオージー映画:「ケリー・ザ・ギャング」「トエンティマン・ブラザーズ」「エイミー」「ウープ・ウープ」「ハーモニー(1996年版)」「ミュリエルの結婚」
●ジョエル・エジャトン出演のその他のオージー映画(テレビドラマ含む):「華麗なるギャツビー」「アニマル・キングダム」「ケリー・ザ・ギャング」「トエンティマン・ブラザーズ」「サンプル・ピープル」「シークレット・メンズ・ビジネス」
「トエンティマン・ブラザーズ」予告編


