不道徳なのに健全でさわやか(映画「ザ・ハートブレイク・キッド」)

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※2026年1月8日更新

ハートブレイクキッド

原題:The Heartbreak Kid

(オーストラリア1993年公開、日本未公開/97分/M/学園恋愛ドラマ/DVD、Stan、Netflix、YouTubeムービー、Googleプレイで観賞可能)

監督:マイケル・ジェンキンス
出演:クローディア・カーヴァン/アレックス・ディミトリアデス

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 全豪テレビドラマ界において“最も視聴率を稼げる女優”の座を実に20年以上の長きにわたって今なお維持し続けているクローディア・カーヴァンと、本作がデビュー作となったアレックス・ディミトリアデス共演の1993年公開のオーストラリアの学園恋愛ドラマ映画。本作からさかのぼること10年前の1983年に上演された舞台劇の映画化で、舞台版の脚本を手がけたリチャード・バレットがマイケル・ジェンキンス監督(「最も危険な悪女<おんな>」)と映画版の脚本を共同執筆、主にメルボルン郊外で撮影され、全豪映画界において最も権威ある第35回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)では受賞こそ逸したものの作品、監督、助演男優賞(ディミトリアデスの父親役のニコ・ラサリウス)という主要3部門にノミネイトされ、モントリオール世界映画祭では脚本賞受賞に輝いた。

17歳の高校生ニック(アレックス・ディミトリアデス)は22歳の新米教師クリスティーナ(クローディア・カーヴァン)に引かれていき…
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 クローディア・カーヴァンはテレビドラマだけでなく本作のように劇場映画にも出演しており、いずれもハリウッドでブレイクする以前のヒュー・ジャックマン、ガイ・ピアース、ヒューゴ・ウィーヴィングというそうそうたる顔ぶれのオージー男優たちを相手役に“主演”している(※ヒュー・ジャックマンとは「ペイパーバックヒーロー」で、ガイ・ピアースとは「月に願いを」で、ヒューゴ・ウィーヴィングとは「ストレンジプラネット」で共演、なお「ストレンジプラネット」には「マルホランド・ドライブ」によりハリウッドで大ブレイクする以前のナオミ・ワッツも出演)。非常に目鼻立ちの整った正統派の美人ながら、絵に描いたような絶世の美女役ではなくどちらかというとサバサバした女性の役を演じることの方が多く、それが彼女の国民的な人気と好感度にも繋がっているともいえるし、だからこそ出るドラマがことごとく高視聴率をマークするのかもしれない。ハリウッドから声がかからなかったはずはないのだが、「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐(Star Wars: Episode III – Revenge of the Sith)」(2005)のソーラ・ナベリー役と、イーサン・ホーク主演の豪米合作SFホラー映画「デイブレーカー(Daybreakers)」(2010)のヒロイン、オードリー役以外、ハリウッドには一切興味を示さず一貫してオーストラリア国内で女優業を続けている(それら2作品のカーヴァン出演のシーンが撮影されたのもオーストラリア)。

目鼻立ちの整った正統派の美女クローディア・カーヴァンが美人だがサバサバした高校教師役を好演
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 相手役のアレックス・ディミトリアデスは18歳の時に受けた本作のオーディションで見事選ばれ華々しいデビューを果たした。本作のヒットによって若い女性たちからアイドル並みの人気を集め、本作のスピンオフとして製作された連ドラ「ハートブレイク・ハイ」のシーズン1(1994)にも主演、そちらも高視聴率を記録した。本作の5年後、ギリシャ系ゲイ青年の役を体当たりで演じたオーストラリア映画「ヘッドオン!」(1998)に主演し世界的な評価を得、アイドルからの脱皮に成功、実力派俳優として認められるに至った。ディミトリアデス自身はゲイではなくストレートだが、2015年オンエアのオーストラリアの連ドラ「プリンシパル」でもゲイのキャラクターで主演した。

授業中もクリスティーナのことが気になって仕方ないニック
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 カーヴァン演じる新米高校教師クリスティーナ、そしてクリスティーナが教えるハイ・スクールに通う高校生でディミトリアデス演じるニックともにギリシャ系2世というキャラクター設定で、ディミトリアデスは本人もギリシャ系2世、一方のカーヴァンは両親ともにオージーだがまだ赤ん坊のころに両親が離婚、母親の再婚相手がギリシャ系2世だから、おそらくはカーヴァンもオーストラリアで暮らすギリシャ系の人々にそれなりに馴染みがあっただろうし、女優としても最初から義父の名字であるカーヴァン姓を名乗っているのは育ての親であるギリシャ系2世の義父のことを愛し誇りに思っているということでもあるだろうから、その点で本作にリアリティをもたらしている。

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 そのほかの俳優ではジョージ・ミラー監督とメル・ギブソンの出世作「マッドマックス」(1979)で修理工グリース・ラット役を演じたことが同シリーズのコアなファンの間で知られるニコ・ラサウリスが本作ではディミトリアデス演じるニックの父親役で出演し、AFI賞助演男優賞候補となった。ちなみにラサウリスはもともとジョージ・ミラー監督の学生時代からの友人で、後に脚本家としても才能を開花させ、ミラー監督との共同執筆でシリーズ4作目「マッドマックス 怒りのデスロード」(2015)と5作目「マッドマックスフュリオサ」(2024)の脚本を手がけた。

 一方で、クリスティーナと同じ高校の同僚教師だが人種差別主義者で、ギリシャ系のクリスティーナやニックを見下しているイヤ〜なアングロサクソン系のサウスゲイト役でウィリアム・マクキネスが出演している。マクキネスはオーストラリアの連続刑事ドラマ「イーストウエスト101(シーズン1)」(2007)でも主人公であるイラク系の刑事と敵対する人種差別主義者の同僚刑事役に扮したことがあり、正統派のハンサムな男優だが性格の悪いキャラクターを演じるのが上手い。

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 本作は、一言で例えれば映画の題材としては昔からよくありがちな、カーヴァン演じるハイ・スクールの新米美人教師に恋心を抱く、ディミトリアデス扮する男子高校生の青春恋愛映画だ。“その手の作品”は、男子生徒のエッチな妄想だったり、女性教師がそんな男子生徒にお色気で迫って恋の手ほどき、というのがテーマになっているものも多いが、さすがAFI賞で作品賞と監督賞にノミネイトされただけでなくモントリオール世界映画祭では脚本賞を受賞しただけあって、エッチシーンはかなり大胆でも、あくまでも恋愛ドラマ、そしてある意味、健全でさわやかである。教師と教え子の一線を超えた恋愛は、現在はもちろん本作公開時においても健全どころか犯罪行為だが、時代を問わず映画やテレビドラマのテーマとして取り上げられるのは、それだけ需要があるということでもあり、本作の場合、最初に言い寄ってくるのは男子生徒の方なので、だからといってそれに教師が乗るべきではないというのは分かってはいても、つい二人を応援したくなる。

 さらに伏線として、本作では前述の通り女性教師と男子生徒がどちらもギリシャ系移民の家に生まれ育ったバックグランドを持つ設定も、多民族国家オーストラリアらしいスパイスとなっている。ギリシャ系やイタリア系は特に、家族間はもちろん同じ人種間での結束が固く、オーストラリアで生まれ育った2世、3世は時にそれを煩わしく感じていたりもする。別のオージー映画でイタリア系3世の女子高生がヒロインの「アリブランディを探して」(2000)でも、ヒロインは自身もイタリア系でありながらイタリア系の人々を冷めた目で見ている。例えば本作では、クリスティーナの婚約者(当然のようにこちらもギリシャ系2世)が結婚後の自分たちの新居としてクリスティーナへの事前の相談なく勝手に購入した家は、なんとクリスティーナの両親が住む家の通りを隔てて目の前! 自分自身の実家だから未来の義両親よりはマシとはいえ、結婚後も両親からあれこれ干渉されるのかと思えばクリスティーナでなくたってうんざりする女性は多いはず。

 ギリシャ系ということでもう一点、クリスティーナの両親は裕福なため立派な家に住んでいるが、この家の外観だったりが、アングロサクソン系の富裕層のオージーたちが住む家とはかなり趣味が異なる。といってもクリスティーナの実家の建築様式が“ギリシャ風”というわけではなく、ではどう違うのかと問われると少々説明が難しいが、オーストラリアでギリシャ系の人々が多く住む住宅街などへ行くと、アングロサクソン系が主流の住宅街とはそれぞれの家のたたずまいが明らかに異なるため、実際にそういった街へ足を運んでみると「なるほど〜」と日本人にも納得できるだろう。

 そんなわけでクリスティーナとニックの二人は程度こそ違えど同じ次元の悩みを抱えており、次第に引かれ合っていく二人に対してなぜか一般的なモラルを当てはめての嫌悪感はあまり感じない。あくまでも映画として、だがしばし、実社会のさまざまなしがらみをすべて忘れて二人の恋の行方を見守るというのが本作の正しい楽しみ方だろう。

STORY
 ギリシャ系移民の裕福な家に生まれ育ったクリスティーナ・パパドポロス(クローディア・カーヴァン)は22歳の新米高校教師で、その名字から生徒たちの間では“パパ”と呼ばれそれなりに親しまれ、私生活では将来有望なこちらもギリシャ系2世の弁護士と婚約し、幸せを満喫しているかに見えたが、実際には自身のギリシャ系という境遇に言いようのない束縛を感じることもあり戸惑っていた。クリスティーナが教えるハイ・スクールに通う同じくギリシャ系2世の17歳の男子生徒ニック(アレックス・ディミトリアデス)はクリスティーナに思いを寄せつつも普段は彼女のことをからかったり反抗的だったりでろくに勉強もせず、アングロサクソン系の生徒たちが“ウォグ(※ギリシャ系やイタリア系などに対する蔑称)のスポーツ”と呼んでバカにするサッカーに夢中になるばかり。ある放課後、ニックがサッカーのプレイ中に喧嘩騒ぎを起こしたことから、やはりサッカーに否定的なアングロサクソン系の教師サウスゲイト(ウィリアム・マクキネス)は、ニックだけでなくニックの仲間たちも全員、永久に校内でサッカーをすることを禁じる。ニックに同情したクリスティーナは、顧問教師さえいればサッカーが放課後の正式な部活動として認められることに気づき、サッカーのことなど何も分からないが自ら顧問として名乗りを上げ…。

「ザ・ハートブレイク・キッド」予告編

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