設定を現代マフィアの抗争に置き換え若年層の観客動員にも成功(映画「ロミオ+ジュリエット」)

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※2025年2月18日更新

ロミオジュリエット

原題:Romeo + Juliet

(オーストラリア1996年、日本1997年公開/120分/M/ロマンス/DVD、Disney+、Apple TV、Amazonプライム、YouTubeムービー、Googleプレイで観賞可能)

監督:バズ・ラーマン
出演:レオナルド・ディカプリオ/クレア・デインズ/ジョン・レグイザモ/ハロルド・ペリノー/ピート・ポルスウェイト

(※以下、文中の紫色の太字タイトルをクリックすると該当作品の本コーナーでの紹介記事へとジャンプします)

 今やオーストラリアが世界に誇る名監督としての地位を揺るぎないものにしているバズ・ラーマン(「エルヴィス」「華麗なるギャツビー」「オーストラリア」「ムーランルージュ」)が、1992年の監督デビュー作「ダンシングヒーロー」の世界的ヒットを受け、その4年後の1996年に手がけた2作目の映画であると同時に、オーストラリア、アメリカ、メキシコ3カ国出資の下、2作目にして米LAでワールド・プレミアを飾りハリウッド進出作ともなった記念すべき作品。ロミオ役にレオナルド・ディカプリオ、ジュリエット役にクレア・デインズが起用され、撮影は一部がアメリカのほかはほぼ全編メキシコで行われた。美術監督は実生活でのラーマン監督夫人であると同時に夫が監督したすべての映画の美術監督を務めているキャサリン・マーティンで、全豪映画界で最も権威ある第39回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)では3カ国合作のため“オーストラリア映画”とは見なされなかったようだが外国映画賞に、米オスカーでも美術/セット装飾賞にノミネイトされたほか、ベルリン映画祭ではディカプリオが最優秀男優賞に当たる銀熊賞を受賞した。製作費の10倍以上の1億5,000万ドル近い興収を弾き出し、以降、ラーマン監督作品で興収が1億ドルに満たないのはデビュー作である「ダンシングヒーロー」のみというヒット・メイカーとしても知られる。ちなみにキャサリン・マーティンは「ムーランルージュ」と「華麗なるギャツビー」で2度オスカー受賞(両作品とも美術賞と衣装デザイン賞の2部門を制覇)、本作と「オーストラリア」「エルヴィス」を含めるとこれまでに合計5作品(つまりハリウッド進出後のすべてのラーマン監督作品)でオスカーにノミネイトされている。

ともにフレッシュな魅力満載だったロミオ役のレオナルド・ディカプリオとジュリエット役のクレア・デインズ
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「ロミオとジュリエット」はこれまでに何度も映画化されているものの、“名作”と呼ばれるのは1936年版(レスリー・ハワードとノーマ・シアラー主演)と1968年版(レナード・ホワイティングとオリヴィア・ハッシー主演)の2作のみだった中、1996年版の本作も見事にその仲間入りを果たした。つまり、約30年周期でロミジュリの名作が生まれていることになる。1936年版のレスリー・ハワードは「風と共に去りぬ(Gone with the Wind)」(1939)のアシュリー役が映画ファンの記憶に残り、共演のノーマ・シアラーは生涯で5回オスカー主演女優賞候補となり(うち1回は2作品で同じ年にダブル・ノミネイションを受けた)1度受賞したオスカー女優で、「ロミオとジュリエット」でもオスカー主演女優賞にノミネイトされた。1936年版公開当時、実年齢はハワード43歳、シアラー34歳で、ともに映像化された中ではロミオとジュリエット役を演じた史上最高齢の男女優でもある。

巨大なキリスト像(中央)を挟んで敵対する2大マフィア、キャピュレット家とモンタギュー家の自社ビルが左右に立つヴェローナ・ビーチの街
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バズ・ラーマン監督のデビュー作「ダンシング・ヒーロー」に登場したコカ・コーラの看板のセルフ・オマージュとも受け取れるシーンも挿入されている
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 ロミジュリの成否の鍵を握るのは当然のようにタイトル・ロールを演じる2人の俳優のキャスティングにあり、ディカプリオ、デインズともに大当たりである。特にディカプリオは今でこそ貫禄ある体型になったが本作と同じ1996年にメリル・ストリープとダイアン・キートン、ロバート・デ・ニーロという3大オスカー俳優と共演し、彼自身も非常に重要な役どころを演じた「マイ・ルーム(Marvin’s Room)」が公開され、本作の翌1997年には大出世作「タイタニック」に主演、と20代前半だった当時は線の細い青年役が彼ほど似合う役者もいないと思われたほど、母性本能をくすぐる美少年の面影を残した端正なルックスから世界中の女性ファンを魅了していた。

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ロミジュリといえば有名なバルコニーのシーンも再現
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 対するするクレア・デインズのジュリエットもとても新鮮で、デインズはもし本作の時代設定がもともとの戯曲通り14世紀イタリアだったとしてコスチューム・プレイも似合いそうな美しい顔立ちだが(※後述するが本作では時代設定を現代に置き換えてある)、本作ではいかにも公開と同じ1990年代当時の“今時の女の子”といった感じで、自宅で乳母と戯れる様も微笑ましい。乳母がいるということは筋金入りのお嬢様なのだがデインズ演じるジュリエットには温かな親しみやすさが溢れていて、その点でも好感度が高い。全くの余談だがクレア・デインズは本作で大ブレイクした後、数年間、オージー・ミュージシャンのベン・リーと付き合っていた時期があり、ベン・リー主演の2003年公開のオーストラリア映画「レイジインプラシッドレイク」のシドニーでの撮影時、たまたまデインズはオフで、シドニーに来てリーと過ごしていたと思われ、同映画に、言われなければデインズのファンでも気付かないようなチョイ役で顔を出しており、一種の“友情出演”のようなものだったのだろう。なお、ディカプリオは17世紀フランスを舞台にした「仮面の男(The Man in the Iron Mask)」(1998)の国王ルイ14世とその双子の兄弟フィリップの一人二役でコスチューム・プレイを経験したが、顔が現代的すぎるのか大御所ばかりのオール・スターに囲まれた中でディカプリオだけが完全に浮いてしまい、“コスチューム・プレイが似合わない俳優”という汚名をいつか別の作品で挽回してほしいもの。

ジュリエット(クレア・デインズ:右)の優しくユーモラスな乳母役のミリアム・マーゴリーズ
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米オスカー美術/セット装飾賞にノミネイトされた美しい背景にも注目
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 脇を固めるのもオール・スター・キャストで、ジュリエットの従兄弟かつロミオの宿敵ティボルト役にジョン・レグイザモ、ロミオの親友マーキューシオ役はハロルド・ペリノー、ロウレンス神父役にピート・ポルスウェイトといった具合にほかも豪華な顔ぶればかり。ラーマン監督は自身の監督作品で毎回必ず、それも一人や二人ではなく大勢のオージー俳優を起用しているが、本作はラーマン監督がハリウッド映画人と組んだ初めての映画だったこともあり、おそらくキャスティングにおける決定権はハリウッドでは“新人”にすぎなかったラーマン監督には一切なく、すべて配給元である20世紀フォックスに委ねられたのだろう、残念ながらオージー俳優はひとりも出演しておらず、唯一、ジュリエットの乳母役でイギリス出身だがその後オーストラリア国籍も取得したミリアム・マーゴリーズ(「ベイブ<声>」)が出ている程度。

ジュリエットの従兄弟ティボルト(ジョン・レグイザモ)
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奇抜な女装姿で仮装パーティに参加する、ロミオの親友マーキューシオ(ハロルド・ペリノー)
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ロウレンス神父(ピート・ポルスウェイト)
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 キャスティングでは(おそらく)ラーマン監督に権限がなかった代わりに妻であるキャサリン・マーティンの美術監督以外にも撮影監督や編集、衣装デザイナーなど主要スタッフにオーストラリア人が名を連ねている(配給元は“売れる映画”にするためキャスティングを非常に重要視するが、スタッフはちゃんとした経験さえあればそこまでこだわらないということだろうか)。ラーマン監督は一緒に仕事をして気に入った俳優を別の作品でも起用することで知られ、といってもそれはあくまでもオージー俳優がほとんどという中、本作からどちらもアメリカ人のレオナルド・ディカプリオを「華麗なるギャツビー」で再度主役に、ティボルト役のジョン・レグイザモを「ムーランルージュ」でトゥールーズ・ロートレック役に起用している。上記いずれの俳優陣も非常に印象的な演技を見せ、ほかにはロミオの従兄弟ベンヴォーリオ役のダッシュ・ミホクもいい味を出している。

ロミオの従兄弟ベンヴォーリオ(ダッシュ・ミホク)
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こちらもロミジュリで有名なクライマックスのシーンも非常に美しく描かれる
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 シェイクスピア作の有名な戯曲をセリフなどはかなり忠実に、だが設定を現代の2大マフィア間の抗争に置き換えたことにより、中世ヨーロッパには全く興味がない若年層の観客動員にも成功、デビュー作「ダンシングヒーロー」の5倍もの1,500万ドル近い製作費の下に取り組むことができたラーマン監督が、水を得た魚のようにめくるめく絢爛たる映像美を展開する。ラーマン監督といえばどの作品もド派手なシーンが出てくることでも有名で、どうしてもそちらが印象に残りやすいが、例えばロミオとジュリエットが初めて出会うシーンはジュリエットの実家キャピュレット家主催の仮装パーティ会場のお手洗い、というと本作を観ていない人はなんて夢のない場所だろうと思うかもしれないが、その洗面所、男性用と女性用の部屋を隔てる壁が、熱帯魚が泳ぐ水槽でできているというなんともロマンティックな造りなのだ。その水槽越しに見つめ合うロミオとジュリエット、このシーンはスロウ・モーションではないのにまるでスロウ・モーションであるかのように見えるし、そこで流れる音楽はUKシンガー、デズリーが歌った本作のテーマ・ソングで、映画の中でもデズリー本人が同じパーティ会場でパフォーマーとして歌う幻想的かつとても静かで雰囲気ある非常に美しいバラード・ナンバーだ。そのパーティではキャピュレット家の主夫妻でジュリエットの両親はシーザーとクレオパトラ、それもヴァラエティ番組のコメディ・スケッチに出てくるコメディアンのような気品のかけらも感じさせない享楽的な古代ローマ皇帝とエジプト女王といった感じの強烈な仮装姿だし、ドンチャン騒ぎして浮かれるパーティ客たちの描写があるからこそ、静かなシーンがさらに魅力的に際立つという“強弱”のコントラストを巧みに利用して見せるバズ・ラーマン監督の見事な演出ぶりにも注目。

 ちなみに本作の10年後の2006年、こちらもシェイクスピア作品を本作同様、現代マフィアの抗争に置き換えた別のオーストラリア映画「マクベス ザギャングスター」が製作・公開され、監督のジェフリー・ライトは本作を観て何かヒントを得たのかもしれない。「アバター」の主演で世界的に大ブレイクする以前のオージー男優サム・ワーシントンが主人公マクベスに扮した同映画もなかなかの秀作なので、機会があればぜひそちらもご観賞を。

STORY
 1990年代、ヴェローナ・ビーチに君臨する2大マフィアのモンタギュー家とキャピュレット家は互いにいがみ合い、一触即発の状態が続いていた。モンタギュー家の一人息子ロミオ(レオナルド・ディカプリオ)は親友のマーキューシオ(ハロルド・ペリノー)に誘われ、キャピュレット家で行われる仮装パーティに潜り込み、そこでキャピュレット家の一人娘ジュリエット(クレア・デインズ)と出会い、どちらも互いに一目惚れ状態で恋に落ちる。だがパーティ会場でジュリエットの従兄弟ディボルト(ジョン・レグイザモ)がロミオが紛れ込んでいることを見抜き、ロミオとジュリエットは相手が敵対する一家の子供であることを知りショックを受け…。

「ロミオ+ジュリエット」日本版予告編

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