
※2025年10月2日更新
「パトリック」
原題:Patrick
(オーストラリア1978年公開、日本ソフト化/112分/M/ホラー/DVDで観賞可能なほか、SBSの公式配信サイトSBSオン・ディマンドで無料配信!→ sbs.com.au/ondemand/movie/patrick/2148483651802)
監督:リチャード・フランクリン
出演:スーザン・ペンハリゴン/ロバート・ヘルプマン/ジュリア・ブレイク
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いずれもアメリカ映画の「エクソシスト」(1973)、「オーメン」(1976)、「キャリー」(1976)、そしてセリフは全編英語のイタリア映画「サスペリア」(1977)、とB級ではなくA級ホラーの名作が多数生み出された1970年代、オーストラリアからも現在に至るまでカルト的な人気を誇るホラー映画「パトリック」が1978年に公開された。上記アメリカ映画が3作品ともに米オスカー候補となったように「パトリック」も全豪映画界で最も栄誉ある第20回オーストラリア映画協会(AFI)賞(現オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞)において、いずれも受賞を逸したとはいえ作品、脚本、編集賞の3部門にノミネイトされ、海外でも一流のファンタスティック映画祭として知られる仏アヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭(現ジェラルメ国際ファンタスティカ映画祭)でグラン・プリ、スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭では監督賞を受賞、米サターン賞では外国映画賞候補となった。クエンティン・タランティーノ監督も本作を絶賛しており、「キル・ビルVol.1」(2003)では本作にヒントを得たシーンを導入していると本人が語っているほど。
植物状態で寝たきりのパトリック(ロバート・トンプソン)の世話をすることになる新任看護師キャシー(スーザン・ペンハリゴン)


監督は本作の海外でのヒットにより世界的な注目を集めハリウッドへ進出し、本作の5年後、アルフレッド・ヒッチコック監督のあまりにも名高いサイコ・サスペンス映画の続編としてこちらも日米を含む世界中でヒットした「サイコ2」(1983)を監督したリチャード・フランクリン(※「サイコ2」はヒッチコックのオリジナル版にはかなわないものの、オリジナル版と同じアンソニー・パーキンスが主演したことなどからそれなりに評価されている)。冒頭で触れた4作品すべて、続編またはリメイク版が存在するのと同じく「パトリック」もオリジナル版から35年後の2013年にリメイク版が再度オーストラリアで製作・公開、リメイク版にはオージー・オスカー候補女優レイチェル・グリフィスが看護部長役で、イギリスの名優チャールズ・ダンスが医師役で出演。「パトリック」のオリジナル版は日本では劇場未公開だったが当時ヴィデオ・ソフト化された後にDVDでもHDマスター版までリリースされるほどコアなファンに支持され、リメイク版は日本でも「パトリック 戦慄病棟」という邦題で公開された。リメイク版にはオリジナル版のヒロイン、キャシー役のスーザン・ペンハリゴンと、キャシーの別居中の夫エド役のロッド・マリナー(「英雄モラント/傷だらけの戦士」)、さらには看護師のひとりを演じたマリア・マーセデスに、冒頭でパトリックに殺されるパトリックの母親役のキャロル・アン・エイレット、と4人までもがオリジナル版とは全く異なるチョイ役で出演し、話題性に一役買った。
キャシー(スーザン・ペンハリゴン)は夫エド(ロッド・マリナー)と別居中だがエドはキャシーとヨリを戻したそうな雰囲気

夫と別居中のキャシーは看護師仲間の女性から別の病院のドクターであるブライアン(ブルース・バリー)をパーティで紹介され

オリジナル版である本作出演者の顔ぶれは、後述のロバート・ヘルプマン以外、国際的に有名な俳優はいないが、後年、マックス・フォン・シドウ主演の「ファーザー」(1989)や、こちらは自身が主演した「もういちど(Innocence)」(2000)などで海外でもその名を知られるようになるイギリス出身のオージー女優ジュリア・ブレイク(「リベンジャー 復讐のドレス」「わが青春の輝き」)がキャシディ看護部長役で出演、怖そうな中年看護部長になりきっていて見事。
近寄りがたいミステリアスな雰囲気を漂わせるキャシディ看護部長(ジュリア・ブレイク)

「パトリック」はゴシック・ホラーに出てきそうな雰囲気の外観を持つ病院を舞台にした超能力モノということで、こちらも外観・内装ともにインパクト大のバレエ学校を舞台にした「サスペリア」と超能力モノで名高い「キャリー」の発想を合わせたような作品と呼べなくもないが、目を覆いたくなるような残酷シーンは一切なし。そういう意味では「エクソシスト」に通じる部分もあるが、「エクソシスト」は悪魔に取り憑かれた少女リーガンが十分怖かった一方、「パトリック」の主人公パトリック青年は超能力者ではあるものの植物状態の寝たきりで、目だけはなぜかまばたきもせずにカッと見開いているが自身の身体は一切動かせないからさほど怖さがない。ラストの観客をあっと驚かせるシーンは「キャリー」の、そして実験用のカエルを登場させたのは「サスペリア」を含み自身のほぼすべての監督作品の中で必ず何かしら動物や昆虫をストーリーに絡ませるダリオ・アルジェント監督の影響とも受け取れなくはない。
目だけは常に見開いている植物状態のパトリック(ロバート・トンプソン)


撮影は全編メルボルンで行われ、前述の、一種独特の雰囲気を漂わせる病院はもとは個人の邸宅として1885年にメルボルンのサウス・ヤラに建てられたヴィクトリアン様式の建物サイモンズ・ホールで、サイモンズ・ホールはその後、ナショナル・トラストによりヘリテージ指定を受け現在に至る。
映画の舞台となる病院として使用された、メルボルンに現存する建物

前述の70年代のホラー映画4作品がいずれも当時既に才能を評価されていた監督の下、オスカー候補歴があったりもするスター俳優たちを起用していたこともA級ホラーと呼ばれるに値する中(※4作品中、唯一アメリカではなくイタリア映画の「サスペリア 」もルキノ・ヴィスコンティ監督の映画に主演したイタリア人女優アリダ・ヴァリを筆頭に、ヒロインには「キャリー」のブライアン・デ・パルマ監督やウディ・アレン監督作品にも出演のジェシカ・ハーパーと、往年のハリウッド女優ジョーン・ベネットの2人をアメリカから招いて撮影)、「パトリック」は公開時点では監督も俳優陣も海外での知名度はなきに等しかった。唯一、病院長であるドクター・ロジェ役のロバート・ヘルプマンはオーストラリア出身のバレエ・ダンサー兼俳優として海外でもその名を知られ、本作の10年前の1968年公開の英米合作ファンタジー・ミュージカル映画で日本を含む世界中で大ヒットを記録した「チキ・チキ・バン・バン(Chitty Chitty Bang Bang)」のチャイルド・キャッチャー役が有名ではあるものの、「チキ・チキ・バン・バン」は子供向け映画かつチャイルド・キャッチャーは主役級の役どころではない。かといって「パトリック」にはB級と切り捨てるのもはばかられる、なんともいいようのない雰囲気が漂う。アヴォリアッツとシッチェス受賞、サターン賞ノミネイトの事実からもA級に数えられるにふさわしいだろう。怖くないような怖いような、曖昧だがまさにその“雰囲気”によって、国内外で高く評価されるに至った珍しいオージー映画といえるのかもしれない。
病院長であるドクター・ロジェ(ロバート・ヘルプマン)

ちなみに本作のサウンドトラックを手がけたのは、オーストラリア人映画音楽家のブライアン・メイ(クイーンのメンバーとは別人!)で、メイは本作の翌年、ジョージ・ミラー監督とメル・ギブソンの大出世作「マッドマックス」(1979)のサントラにより同年度AFI賞作曲賞初ノミネイトにして受賞、その後も、どちらも1981年公開の「マッドマックス2」とピーター・ウィアー監督の「誓い」の音楽も作曲した一流の映画音楽家だが、本作がイタリアで公開されるに当たって、なぜかイタリアの配給会社はブライアン・メイのスコアが気に入らなかったのか、ゴブリンというイタリアのプログレッシヴ・ロック・グループに新たにサントラを依頼し、映画の中のすべての音楽をゴブリン作曲のものに差し替えてしまった。ゴブリンはイタリア映画「サスペリアPART2(英題:Deep Red)」(1975) で初めてダリオ・アルジェント監督作品のサントラを手がけて以来、アルジェント監督のお気に入りとなり、本作の前年の「サスペリア」(1977)、その後もいくつものアルジェント映画において見事な音楽を作曲したとはいえ、「パトリック」のゴブリン版サントラに関しては、その評価はゴブリン・ファンの間でもさほど高くはなく、ブライアン・メイのオリジナル版で通しておけばよかったものを、おそらく「サスペリア」がホラー映画のサントラには珍しくアルバム自体もヒットしたため、それに便乗しての差し替え劇だったのだろう。
STORY
3年前に実の母親とその愛人を殺害した青年パトリック(ロバート・トンプソン)はそれ以来、植物状態となり、目だけは常に開いているが身動きはおろか第三者との意思疎通も一切できず、メルボルンの病室のベッドで寝たきりとなっている。その病院に看護師として新たに雇われたキャシー(スーザン・ペンハリゴン)は、パトリックの世話をするうち、実はパトリックの耳がちゃんと聞こえているのではないかと疑問を抱くようになる。同時に、キャシーの周囲では不可解な出来事が相次いで起こり…。
※映画「パトリック」はSBSの公式無料配信サイトSBSオン・ディマンドで無料配信!→ sbs.com.au/ondemand/movie/patrick/2148483651802
「パトリック」予告編


