相手の苦悩を取り除く超人的エンパスの苦悩「ハーモニー」

harmony_poster1810「ハーモニー」

Harmony

(オーストラリア2018年公開、日本未公開/90分/M/ミステリー・ファンタジー)

監督:コーリー・ピアソン
出演:ジェシカ・フォークホルト/ジャクリーン・マッケンジー/ジェローム・メイヤー/エイモン・ファーレン

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「ネイバーズ」と並ぶオーストラリアの人気長寿連続ドラマ「ホーム&アウェイ」に2016年にレギュラー出演したことで知名度を上げた若手オージー女優ジェシカ・フォークホルトの劇場映画デビュー作であると同時に初主演作。不幸なことにフォークホルトは本作公開の数カ月前、両親と妹とともに乗っていた車が対向車に正面衝突される事故に遭い全員が命を落とすという悲劇に見舞われ、本作は女優としてこれからという29歳の若さにして亡くなった彼女の遺作にもなってしまった。監督は本作と同じ18年の映画で日本でも今年公開された「メッセージマン」で監督デビューしたコーリー・ピアソン、共演に92年の映画「ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印(Romper Stomper)」でラッセル・クロウの相手役を演じて話題を集め、その後ハリウッドにも進出したジャクリーン・マッケンジーほか。

本作が初主演、劇場映画デビュー、そして遺作となったジェシカ・フォークホルがタイトル・ロールのハーモニーを好演
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 完全フィクションの本作は同じ年の同じ日に生まれた5人の若い男女の物語を1人ずつ5作にわたって綴るべく、その第1作目としてフォークホルト演じるタイトル・ロールであるヒロイン、ハーモニーにフォーカスを当てたピアソン監督の意欲的なシリーズ映画になるはずだったが、封切り前に主演女優が事故死するという悲劇が不吉で縁起が悪いものだと見なされたとしても不思議はないだろう、2作目以降の話は報道されていない。

ハーモニー(ジェシカ・フォークホルト)は生まれて初めて苦悩のオーラを感じないメイソン(ジェローム・メイヤー)と出会い…
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 ヒロイン、ハーモニーは超人的な“エンパス(極めて高い共感能力を持つ人)”、ここでは相手の苦悩を相手の身体に触れることによって自分の体内に吸い込み相手から取り除ける能力の持ち主という設定。それ以上に設定ということではどの国が舞台なのかも分からないようになっており、ハーモニーが一人で暮らす部屋も倉庫街の一角にあるような古びた寒々しい空間で、バスタブの上の天井にぶら下げたいくつものバケツに溜まった雨漏りの水を、紐を引っ張って一気にバスタブに流し落としシャワー代わりに浴びるシーンなど一風変わった描写が特徴(アメリカのホラー映画「キャリー」でヒロイン、キャリーがクラスメイトの意地悪な企みによりバケツに入った豚の血を浴びせられる有名なクライマックス・シーンのオマージュとも受け取れる)。主要キャラクターを演じるのは全員オージー俳優なのに全編のセリフの言い回しがアメリカ英語だったことでオージーの批評家からその点を酷評されたが、場所を特定させたくなかったミステリー・ファンタジーなのだから、明らかなオージー・イングリッシュでコアラとカンガルーとグダイ・マイトの国が舞台だと分かるよりは、まだ世界的に受け入れられているアメリカ英語のほうが興醒め度合いも低いというもの。

ハーモニーが住む部屋の周辺にたむろする不良集団(左端がリーダー格ジミー役エイモン・ファーレン、右端が吃音症のライアン役ヘイダン・マー)
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 シャイで内向的だが優しいハーモニーを自然な演技で好演するフォークホルトのほか、家族を自動車事故で失った悲しみから拳銃自殺しようとしていたところをハーモニーに救われる心理学者ベス役のジャクリーン・マッケンジー(家族の自動車事故死という設定が、フォークホルトが辿った運命と同じでやるせないが…)、ベスの息子でベスを通してハーモニーと出会い心を通わせていくメイソン役のジェローム・メイヤー、不良集団のリーダー格ジミー役のエイモン・ファーレンなどが印象的な演技を見せる。もう一人、ジミーと同じ不良集団で吃音症のライアンを演じるヘイダン・マーも、不良集団からハーモニーを守ろうとする健気な青年役で好感度が高い。

 シドニーのほかは大部分が同じニュー・サウス・ウェールズ州ウロンゴンで撮影された本作の衣装デザイナーは、こちらも劇場映画の衣装デザイナーとしては本作がデビュー作となった、ジャパラリア誌上「オージー・レシピ」担当のネヴィちゃんことネヴィル・カー(「パルス」「ハウス・オブ・ボンド」)。ウロンゴンでの撮影期間中、ネヴィちゃんを含むスタッフとキャストは現地に数週間滞在し、その間、関係者を交えてフォークホルトとも何度か一緒に食事や飲みに行ったりしたこともあり、素顔のフォークホルトもとても好印象だったとのことで、彼女の突然の死を悲しんだ一人。シドニーで執り行われたフォークホルトの葬儀にはネヴィちゃんも参列した。衣装デザインに当たっては冬という設定の本作でほとんどの主要キャラクターにコートを着せることにし、どのキャラクターにどんなコートを着せるか、それさえ決まれば全編を通しての画面全体のバランスが決まる、とその点に留意して取り組んだそう。

【シーンに見るオージー・ライフスタイル】ハーモニー(ジェシカ・フォークホルト)がメイソン(ジェローム・メイヤー)と初めて出会うホーム・パーティで、ハーモニーとの会話が途切れたメイソンが「これ、もう食べた? 美味しいよ」と言って巻き寿司を1切れ手でつまんでハーモニーの口に押し込むシーンがある。さすがに巻き寿司を家庭で作ることができるオージーは現在でもほとんどいないが、21世紀以降のオーストラリアではこのシーンのように外で買った寿司をホーム・パーティで出すことも珍しくなくなってきた。

Story

 相手の身体に触れるだけでその相手の苦悩を取り除ける超人的なエンパスとして生まれたハーモニー(ジェシカ・フォークホルト)は、ある夜、路地裏で拳銃自殺しようとしていた心理学者ベス(ジャクリーン・マッケンジー)を同じように救う。その後ベスの家を訪れたハーモニーはベスの息子メイソン(ジェローム・メイヤー)と出会うが、ふとメイソンと手が触れ合った時、メイソンからは苦悩のオーラが全く感じられないことに気づき…。

「ハーモニー」予告編

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