ズレてはいるがスレてない、愛に溢れた一家の城「ザ・キャッスル」

OzFilm「ザ・キャッスル」

The Castle

(オーストラリア1997年公開、日本Hulu配信/85分/M/ヒューマン・コメディ)

監督:ロブ・シッチ
出演:マイケル・ケイトン/エリック・バナ/ソフィー・リー

 

「ハルク」(03)の主演によりハリウッドでの地位を確立したオージー男優エリック・バナの映画デビュー作。バナはそれ以前から本国オーストラリアでは自身の名を冠したTVコメディ番組を持つほどの人気コメディアンで、本作もヒューマン・コメディかつ本作でのバナはあくまでも脇役でしかないが(ストーリーの主軸となる、とあるオージー一家の長女の結婚相手役でオープニング・クレジットにも名前が出てこない)、本作を機にその後シリアスな役もこなせる映画俳優としての才能を開花させ、英米合作映画「ブーリン家の姉妹(The Other Boleyn Girl)」(08)の英国王ヘンリー8世役などでお馴染み。同年度オーストラリア・アカデミー(AFI)賞(現AACTA賞)では主演男優(一家の主ダリル役のマイケル・ケイトン)、助演男優(引退した元ヴェテラン弁護士役のチャールズ‘バッド’ティングウェル)、助演女優賞(一家の長女トレイシー役のソフィー・リー)など4部門にノミネイトされ、オリジナル脚本賞受賞に輝いた小気味良いストーリー展開が魅力的なヒューマン・コメディだ。自身もオージー俳優のロブ・シッチ(「キャス&キムデレラ」)が監督、撮影は州都メルボルンを含むヴィクトリア州をメインに、クライマックスの最高裁のシーンはキャンベラで行われた。

愛に包まれたケリガン一家
1

 メルボルン郊外の空港敷地の真隣に家を構える一家が空港拡張のための立ち退きを迫られ、一家の主が理不尽な立ち退き要請に敢然と立ち向かうというのが話の大筋で、この一家がそろいもそろって絵に描いたような労働者階級の“一般庶民”である。彼らの言動は下品ではないが、当然のように洗練されてもおらず、随所に盛り込まれたトンチンカンな会話が笑いのツボである。結婚した長女がタイでのハネムーンから帰ってくると、一家全員で長女夫妻のエキサイティングな旅行話、といってもタイがどうだったかではなく、往復の飛行機の機内で「チキンかビーフか選べるのよ! 映画だって2本も観られたんだから!」という次元の話で盛り上がる。母娘二人きりの時、新婚の娘に子供を作る予定は?と聞く母に、「私には仕事のキャリア(地元のなんてことない美容室での美容師)があるから今はまだ考えられないわ。少なくとも23歳(!)になるまでは」といった具合に、映画が公開された97年当時でも一般的な感覚からはかなりズレた、だが、純朴で憎めない一家なのだ。

 そう、ズレてはいるがスレてはいない。都会的な洗練された生活とは無縁だが、この一家には溢れるほどの愛がある。両親は互いに愛し合っており、盗みを働いて服役中の長男を含む3人の息子たちと長女を愛し、子供たちも全員両親を慕い、兄弟仲もいい。料理や手芸・工芸自慢の母が作った料理を、父は毎回「すごい! これは何ていう料理だい?」と尋ねる。食事は家族全員で、それも食事中は必ず“TVの音量を下げて”取る(TVの電源を切るわけではないという、これもジョークのひとつ)。

食後は一家でTV観賞を楽しむのが日課
3

 俳優陣はエリック・バナ以外は特に日本人に知名度のあるスターはいないが、長女役のソフィー・リー(「ヒー・ダイド・ウィズ・ア・ファラフェル・イン・ヒズ・ハンド」)はともに日本でも公開され話題を集めた「ミュリエルの結婚(Muriel’s Wedding)」(94)の意地悪な女友達のリーダー格役と「タップ・ドッグス(Bootmen)」(00)のヒロイン役などがある。また、映画の中に出てくるTV番組はすべてオーストラリアに実在し、番組司会者なども本人がカメオ出演している。

ケリガン家の長女トレイシー(ソフィー・リー)はコン(エリック・バナ)と結婚し
2

 どの家も、その持ち主にとってはかけがえのない“城(キャッスル)”であろう、この一家の主は「これは単なる“house”ではなく“home”なんだ!」と訴える。前者は建物としての家、後者はそこに住む者にとっての生活の拠点である家庭を意味する。全編に笑いを盛り込みながら、ちょっぴりジーンとさせ心温まる本作は、観る者に自分もこんな家族の一員だったらいいなと思わせてくれるはず。

【セリフにおける英語のヒント長女夫妻がハネムーンから戻り、長女トレイシー(ソフィー・リー)が機内食で「チキンかビーフ・ウェリントンが選べた」と言うビーフ・ウェリントンは、英国生まれの料理名で牛肉のパイ包み焼きのこと。

Story

 メルボルン郊外、空港滑走路敷地の真隣に家を構えるケリガン家は、さして裕福ではないが両親、服役中の長男を除く次男と三男、そして長女が、父自慢のグレイハウンド犬と幸せに仲良く暮らしていた。だがそんなある日、空港敷地面積拡張のための立ち退きを要請される。立ち退き料として7万ドルを提示されるが、その金額では2ベッドルームのユニットすら購入できない。第一、金額の問題ではない、愛と思い出の数々によって形成されたかけがえのない“城”を、そして愛する家族を守り抜くために一家の主ダリルは敢然と立ち上がるが…。

「ザ・キャッスル」予告編

「オージー映画でカウチ・ポテト」トップに戻る
oz_movie_top