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ドラァグ・クイーンたちの豪州大陸横断珍道記

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プリシラ

The Adventures of Priscilla, Queen of the Desert
(オーストラリア1994年、日本1995年公開/103分/M15+/コメディ・ドラマ)

監督:ステファン・エリオット
出演:テレンス・スタンプ/ヒューゴ・ウィーヴィング/ガイ・ピアース/ビル・ハンター

 

 世界的な人気と知名度という点で、それまで「マッド・マックス」と「クロコダイル・ダンディー」しかなかったオーストラリア映画界に一躍世界の注目を集めるきっかけとなった作品が1994年に劇場公開された。オージーたちの間でも長ったらしい正式名称ではなく邦題と同じ「プリシラ」として親しまれている本作がそれだ。同年度オーストラリア・アカデミー(AACTA)賞(元AFI賞)において作品、監督、脚本、さらには主演男優賞にもテレンス・スタンプとヒューゴ・ウィーヴィング(「虹蛇と眠る女」)2人同時に主要8部門9候補にノミネイトされ美術賞と衣装デザイン賞を受賞、同年度米アカデミー賞でも唯一、衣装デザイン賞のみだったがノミネイトされ、こちらも見事オスカー受賞に輝いている。本作の全米でのヒットを受け、翌1995年には3人のアメリカ人ドラァグ・クイーンを描いたハリウッド映画でパトリック・スウェイジ主演の「3人のエンジェル(To Wong Foo, Thanks for Everything! Julie Newmar)」も製作されたほど。「プリシラ」は映画の公開から12年後にはミュージカル舞台化もされ、2006年のシドニーでの初演が大ヒットし、その後ロンドン、ブロードウェイ、東京でも公演された。

左からガイ・ピアース、テレンス・スタンプ、ヒューゴ・ウィーヴィング
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 シドニーに住む3人のドラァグ・クイーン(ウィーヴィングとガイ・ピアース演じる2人はゲイで、スタンプ扮するもう1人は性別適合手術を受けて女性になった役柄)たちが、その名も「プリシラ」と名付けた大型バスに乗り込み、北部準州のリゾート・ホテルでショウを行うためにシドニーからアリス・スプリングスまでオーストラリア大陸横断の旅に出発、道中で起こる悲喜こもごものハプニングやドラマを描いたいわゆる“ロード・ムーヴィー”だ。

ドラァグ・ショウのシーンはとにかくド派手(左からガイ・ピアース、
テレンス・スタンプ、ヒューゴ・ウィーヴィング)

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 世界規模でのヒットの要因はさまざまに考えられる。まずは米豪両国の権威ある映画賞を受賞した衣装デザインだ。ドラァグ・クイーンの衣装なので、とにかく派手ではあるが、広大な砂漠の中を走るバスの屋根の上に主演の一人ガイ・ピアースがドラァグ・クイーンの衣装とメイクで座り、オペラを口パクで歌うシーンは、ピアースの衣装が風で大きく後方にひるがえる様が圧巻で、単に華麗な衣装を用意しただけではなく、“見せ方”も抜群だった。サントラもABBAを筆頭に誰もが1曲は知っているであろう新旧ダンス・ミュージックの数々やバラードを取り混ぜ、耳でも十分楽しませてくれる。

映画のポスターにも使用された有名なシーン
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 第2は、オーストラリアという国そのものの観光ヴィデオを観るかのような風景・生活描写にある。国内最大の都市であるシドニーを出発し、カメラは世界遺産シドニー・オペラ・ハウス(世界遺産登録は2007年)をくっきりフレイムに入れつつ、シドニー・ハーバー・ブリッジを渡るバスを空撮でとらえ、内陸部の砂漠地帯、アボリジニの人々がジプシーのように夜ごと満点の星空の下で繰り広げる夜宴、田舎町の荒っぽい男たちや住民の好奇とあからさまな嫌悪の視線など、それぞれの土地とそこで暮らす人々が、フィクションとはいえリアルに描かれる。内陸部の厳しい、だが筆舌に尽くしがたい美しい大自然がスクリーンいっぱいに映し出され、これを見たら誰もがオーストラリアに行きたくなるだろう。

 加えて、主要キャラである3人のドラァグ・クイーンを演じる男優が、いずれもバッチリのキャスティング。英国から招かれて来豪出演のテレンス・スタンプは本作出演の時点でハリウッドでも既に大御所だったが、ともにオージー俳優であるヒューゴ・ウィーヴィングとガイ・ピアースは本作を機にハリウッド映画界にも進出するほどの人気を博し、ウィーヴィングは「マトリックス」三部作と「ロード・オブ・ザ・リング」三部作、ピアースは「L.A.コンフィデンシャル」(97)や「メメント」(00)などで世界的にその名を知られる存在になった。キャスティングに当たっては当初、ウィーヴィングの役にルパート・エヴェレット、ピアースの役はジェイソン・ドノヴァンに出演交渉があったらしく、また、スタンプはこれまでのキャリアで全く演じたことのない役柄(性別適合手術を受けて女性になったドラァグ・クイーン)に躊躇したらしいが、蓋を開けてみたらこの3人以外には考えられないと思えるほど3人とも見事な演技力でそれぞれの役に説得力をもたらし、なりきっている。

 上記3人のほかには、砂漠のど真ん中でバスがエンストしたのをきっかけに3人の助っ人としてバスに乗り込むボブ役の故ビル・ハンター(「ミュリエルの結婚」)が、映画の中盤以降における重要なキャラクターとして大御所俳優の存在感を示している。ちなみにステファン・エリオット監督本人もリゾート・ホテルのドアマン役で出演しており、これがなかなかのイケメンで、エリオット監督は同年公開の「ミュリエルの結婚」でもミュリエルの女友達が旅先で知り合う男の子たちのグループの一人として登場。

オーストラリア映画界の大御所・故ビル・ハンターも重要な役どころで出演
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 世界的に名高い同性愛者の祭典「シドニー・ゲイ&レズビアン・マルディ・グラ」が毎年開催されているオーストラリアでも依然として、特に田舎町では同性愛者に対する偏見が根強く存在するというが、道中、そのために辛い思いも経験しながらも、基本的に3人はすがすがしいほどにたくましく、観る者に勇気と元気を与えてくれる壮快感に溢れた映画として大勢の人におすすめ。

【セリフにおける英語のヒント(その1)3人がホテルの部屋で「チューカーズ!(Chookas)」と言って乾杯するシーンがある。舞台などの公演を控えたパフォーマーに「Good luck」という激励の言葉は直接的すぎて逆に不吉であると見なされることから「ブレイク・ア・レッグ(Break a leg)」と言うのが英語圏では一般的だが、「チューカーズ」はそれと同義のオージー・イングリッシュである。

【セリフにおける英語のヒント(その2)女装姿のフェリシア(ガイ・ピアース)がレンタル・ヴィデオ・ショップに行くシーンがあり、店員に借りたいヴィデオとして尋ねたのは日本でもヒットした米ホラー映画「悪魔のいけにえ」(74)である。原題は「ザ・テキサス・チェーンソー・マサカー(The Texas Chain Saw Massacre)」で、最後の「マサカー(Massacre)」は「大虐殺/大量殺人」という意味だが、フェリシアは「『ザ・テキサス・チェーンソー・マスカラ(Mascara)』(のヴィデオ)はあるかしら?」と聞く。ドラァグ・クイーンならではのジョークである。

【セリフにおける英語のヒント(その3)何も知らないボブ(ビル・ハンター)に3人はどんなショウをやるのかと聞かれ、フェリシア(ガイ・ピアース)が正直に「女装して他人の曲に合わせて口パクで踊るの」と答えると、「いわゆるレ・ガールズみたいなやつだな。俺も若いころにシドニーで観たことあるよ。最高だった!」とボブが言うセリフの「レ・ガールズ(Les Girls)」とは、シドニーの繁華街キングス・クロスに実在した有名なドラァグ・ショウ専門のキャバレー・パブのことで、一種の観光名所としてストレート客にも人気だった。

【セリフにおける英語のヒント(その4)ラストに近いシーンで、出発するバスを見送るバーナデッド(テレンス・スタンプ)に向かいバスの中から子役が笑顔で叫ぶ一言が、背景にBGMも重なり日本人には聞き取りづらく、なぜその一言でバーナデッドがムッとした表情を見せるのかが分からないが、子役は年齢を気にするバーナデッドにモロに「さよなら、おばあちゃん!(Bye, Gran!)」と叫んでいるのだ。

Story

 シドニーのドラァグ・クイーン仲間、ミッツィ(ヒューゴ・ウィーヴィング)、バーナデッド(テレンス・スタンプ)、フェリシア(ガイ・ピアース)の3人は北部準州アリス・スプリングスのリゾート・ホテルでショウを行うために大型バスで豪州大陸横断の旅に出る。だがミッツィには、実は2人に隠しているある重大な秘密があり…。

「プリシラ」予告編

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