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豪LGBT史上にその名を残す一組のゲイ・カップル

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ホールディングマン 君を胸に抱いてー」

Holding the Man
(オーストラリア2015年公開、日本2016年Netflix配信/127分/MA15+/ゲイ・ロマンス)

監督:ニール・アームフィールド
出演:ライアン・コアー/クレイグ・ストット/サラ・スヌーク/ガイ・ピアース/アンソニー・ラパーリア

 

 1994年にAIDSにより34歳の若さで他界したメルボルン出身の俳優ティモシー・コニグレイヴが死の直前に書き上げ、95年に出版された同名自叙伝の映画化。原作は同性愛者だったコニグレイヴが、高校時代から付き合っていたパートナーでこちらもAIDSを患いコニグレイヴに2年先立って92年に亡くなったジョン・カレオとの15年間にわたる関係を綴った感動の恋愛ドラマだ。出版から11年後の2006年にまず舞台化され大反響を巻き起こし、舞台版と同じトミー・マーフィーが映画版の脚本も手がけ、故ヒース・レジャー主演の「キャンディ」(06)などのニール・アームフィールドが監督。映画版も同年度オーストラリア・アカデミー(AACTA)賞ではいずれも受賞を逸したとはいえ作品、監督、脚色、編集、主演男優(ライアン・コアー)、助演男優賞(アンソニー・ラパーリア)の主要6部門にノミネイトされた。

ティム(ライアン・コアー:写真左)とジョン
(クレイグ・ストット)は互いに深く愛し合い…
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 主人公ティム(ティモシー・コニグレイヴ)役に、メル・ギブソンが監督した「ハクソー・リッジ」(16)にも出演したライアン・コアー、相手役のジョンをシェイクスピアの名作を現代風にアレンジしたオージー映画「マクベス ザ・ギャング・スター(Macbeth)」(06)などのクレイグ・ストットが演じた。ティムの父親役にガイ・ピアース(「プリシラ」)、ジョンの父親役にはアンソニー・ラパーリア(「アリブランディを探して」)、ティムが通うシドニーの演劇大学の演技指導講師役を「シャイン」(96)でオスカー主演男優賞を受賞したジェフリー・ラッシュ(「ケリー・ザ・ギャング」)という3人の大御所オージー男優たちがガッチリと脇を固め、前述の通り本作でコアーが豪アカデミー主演男優賞に、ラパーリアが同助演男優賞にノミネイトされた。

 女優陣では高校時代からティムとジョンの関係を温かく見守る女友達ピピ役のサラ・スヌークが非常に印象的な演技を見せるほか、セリフなしの短い1シーンとはいえエレヴェイターの中でティムとジョンが熱烈にキスする場に居合わせる初老の図書館司書役に名脇役女優ケリー・ウォーカー(「オーストラリア」「アリブランディを探して」)が扮しており、ウォーカーの“目のやり場に困る女性の演技”にも注目。

ティム(ライアン・コアー:写真右)とジョン(クレイグ・ストット:
同左)の関係を温かく見守る女友達ピピ(サラ・スヌーク:同中央)
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エレヴェイター内でのティムとジョンの熱烈なキスを前にした
初老女性役にヴェテラン女優ケリー・ウォーカー

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 恋人同士であるティムとジョン二人とも実在の人物だから写真が残っており、演じたコアーとストット二人とも実際の本人に似ているのだが、似せる必要があったのか疑問が残るのは事実。というのもティムは俳優だったとはいえ有名になったのは死後、自叙伝が出版されてからで、コアー演じたハイ・スクール時代のティムはどう見ても10代の男の子には見えない。相手役のジョンに扮した一方のストットも、こちらも実際の本人がそうだったのかもしれないがコアーと並ぶとかなり背が低く、フットボール部の花形選手役としては説得力に欠けるだけでなく画面を見ていて二人の身長差が異常に“気になる”。本来そこは観賞者に気にさせる部分ではないはずなので、ある意味“失敗”である。やはりティムの父親役として老け込んだルックスで望んだガイ・ピアースも、本作公開時の実年齢は48歳なので高校生の息子がいる父親であってもおかしくないが、「プリシラ」(94)でブレイクして以来ずっとハンサムなイメージで通してきたこともあり、脇役、しかも“ごく普通の中年男性”役には違和感を拭いきれない。

 だが、いずれの俳優陣も演技力においては完璧ともいえ、コアーとストットは本作の撮影中、プライヴェイトでも手をつないでデイトしたりしていたと聞いて納得の説得力がある。プライヴェイトでのデイトは役作りのためだったといえ、ストットは実生活でもゲイで、ストットは撮影中、本当にコアーに恋していたと後に語っている。

息子がゲイであること知りショックを受けるティムの両親
(左は父親役のガイ・ピアース)

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息子がゲイである事実を頑なに受け入れようとしないジョンの父親役に
扮し豪アカデミー助演男優賞にノミネイトされたアンソニー・ラパーリア

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ティムの大学演技指導教師役にオージー・オスカー男優のジェフリー・ラッシュ
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 実話に基づいているというだけではない感動のドラマであることも事実だ。高校生だったティムとジョンが互いに惹かれ合い恋に落ち、途中で一度別れたりしながらも、自身もHIVに感染していたティムがジョンの最期を看取るまで、15年の歴史をともに築き上げた二人の男性の姿は、映画を観る者がゲイであろうがストレートであろうが激しく心を揺さぶる。二人が付き合い始めた1976年は、今でこそ世界的に名高い同性愛者の祭典シドニー・ゲイ&レズビアン・マルディ・グラも開催されていなかった時代で同性愛者に対する偏見も強かったが、二人が通う高校の教師に関係がバレても、ジョンの父親に断固反対されても、二人は凛とした態度を崩さず互いの愛を貫く。人間愛や親子愛などさまざまな形の愛があるが、パートナーとして人を愛することの素晴らしさも、それが異性間であるか同性間であるかなど一切関係なくこの世には存在することを本作は教えてくれる。オーストラリアでは2017年、ついに同性婚が法律で認められ、マルディ・グラも翌18年に開催40周年を迎えた。ティムとジョンは、間違いなくそこに至る道を切り拓いたオージーたちの中の一組のゲイ・カップルである。

【セリフにおける英語のヒント(その1)タイトルの「ホールディング・ザ・マン(Holding the Man)」とは、邦題のサブ・タイトル(「君を胸に抱いて」)そのままの意味だが、もうひとつ、オーストラリアン・フットボールにおけるルール上の反則のひとつで「ボールを持っていないプレイヤーをつかんで放さないこと(Holding the Man)」でもある。高校時代のジョンがフットボール部だったことだけでなく、まだ同性愛が社会的にタブー視されていたころに二人が付き合い始めたことも引っかけた非常に奥が深いタイトルだといえるだろう。

【セリフにおける英語のヒント(その2)ティムとジョンがそれぞれの両親宅で暮らしていた高校時代、夕飯時に二人が電話で話すシーンで、ティムが「今夜の家の夕飯はキャセロールなんだ」と言うと、ジョンも「家はチョップスとマッシュ・ポテトだよ」と言う。キャセロールは要するに煮込み料理(シチュー)のことで、具材も味付けもさまざまなヴァリエイションがあるものの日本で一般的なビーフ/クリーム・シチューとはかなり異なり、オーストラリアでは定期的に鍋をかき回さなくても焦がさずにじっくり時間をかけて煮込めるスロウ・クッカー(Slow Cooker)なるキャセロール専用の電気鍋もほとんどのオージー家庭にある。一方のジョンが言った「チョップス(Chops)」は骨付き肉を焼いたものだが、「チョップス」とだけ言う場合、オーストラリアでは通常、豚肉(ポーク・チョップス)ではなく仔羊肉(ラム・チョップス)のことを指す。

セリフにおける英語のヒント(その3)ティムがシドニーで進学する学校で「ナイダ(NIDA)」と呼ばれているのは、メル・ギブソンやケイト・ブランシェットなどを輩出したオーストラリア随一の国立演劇大学(National Institute of Dramatic Art)の頭文字。

Story

 1976年、メルボルンにあるカソリックの男子校に通う演劇部のティム(ライアン・コアー)は、地理の授業で一緒のフットボール部の花形選手ジョン(クレイグ・ストット)に恋をし、思い切って告白したところOKをもらい二人は付き合い始める。一途なジョンに対しティムはほかの男性とも性的関係を持ち、1985年にHIVテストを受けた際、最初はティムだけが陽性だと判明するが…。

「ホールディング・ザ・マン ー君を胸に抱いてー」予告編

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